2022年4月から高校学習指導要領改訂によって学校での金融経済教育の内容が拡充されました。これにあわせて金融庁が高校向け金融経済教育指導教材を公表しています。
なかなか丁寧な作りになっており、今後の活用が期待されます。日本は金融経済教育が長らく放置されてきたので、今回の取り組みは大きな第一歩でしょう。ただ、金融経済教育とあわせて充実すべきものもあるのでは。それは「社会保障教育」と「労働法教育」です。
金融庁の高校向け金融経済教育指導教材を見て、まず評価できる点が過度に「投資」に焦点を当てていないことです。主眼はあくまで「ライフプランニング」と「資産形成」となっており、金融商品への投資はあくまで選択肢のひとつとして提示されているに過ぎません。こういった穏健な取り扱い方は学校教育として妥当です。
また、「金融トラブル」に対してかなりのスペースを割いていることもポイントです。2022年4月から成人年齢が18歳に引き下げられましたので、高校生のうちからしかりと注意喚起し、身を守る術を学んでおくことは大切です。
学校教育の場で「金融経済」について学ぶ機会が充実することは大いに結構なことですが、あわせて拡充して欲しいのが社会保険制度や生活保護制度について学ぶ「社会保障教育」と、労働者の権利保護制度について学ぶ「労働法教育」です。この点に関しては、以前にこのブログでも書きました。
そもそも「ライフプランニング」も「資産形成」も、その前提は社会保障制度です。例えばどれだけ民間保険に入ればいいのか、あるいは老後資金をどれだけ用意しなければならないのかなどは、どれだけ社会保障制度を利用できるのかによって大きく変化します。また、本当に生活が困窮した時にどうするべきかも知っておく必要があります。だから、社会保障制度について十分に理解しないうちは、どんなに「ライフプランニング」や「資産形成」について学んでも画竜点睛を欠く。
また、ライフプランニングや資産形成の基盤は、それこそ「働いて収入を得る」という人的資本の問題に帰着するのですが、そこで大切なのが「労働者の権利」です。この権利を保護するのが労働法。だから、労働法に関する十分な理解がないと、それこそ悪い大人に一方的に搾取されてしまう。実際に日本では労働法教育が貧困なために、例えばブラックバイトやブラック企業がのさばるという悲しい現実があります。
もちろん国も問題を看過しているわけではありません。例えば厚生労働省は社会保障教育の拡充を進めており、教材の配布も進めています。
社会保障教育(厚生労働省)
また、労働法教育に関してもこれまでいくつかのプログラムを発表しています。そのほか、現在も労働法教育に関する支援対策事業を実施しています。
全国の高等学校等のための労働法教育プログラムが完成(厚生労働省)
こうした取り組みをさらに強化する必要があると思う。また、ここでも金融庁と厚生労働省の連携が必要でしょう。社会保障教育と労働法教育が充実してこそ、本当の意味で金融経済教育が実効性のあるものになると思うのです。
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