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2021年4月25日

バフェットやボーグルが米国への集中投資を勧める理由

 

最近、幅広い国・地域に分散投資するよりも米国株へ集中投資することを勧める声が多くなってきました。その根拠としてよく言われるのが、過去30年ぐらいの米国株のパフォーマンスが他の国・地域と比べて圧倒的なこと、そして投資界のレジェンドであるウォーレン・バフェット氏とジョン・C.ボーグル氏がともに一般の個人投資家にはS&P500に連動するインデックスファンドによる米国株への集中投資を推奨していることがあります。では、なぜバフェットやボーグルは米国株への集中投資を勧めるのでしょうか。これに関してちょっと私見があるので、紹介したいと思います。

バフェット氏自身は非常にアクティブな投資家で個別銘柄の集中投資を行っていますが、一般の個人投資家にはインデックス投資を推奨しており、実際に自分の死後は遺族に対して資産をS&P500に連動するインデックスファンドで運用するように遺言しているというのはよく知られた話です。また、インデックスファンドの生みの親であるボーグル氏も生前のインタビューでS&P500インデックスへの投資を推奨していました。

なぜ2人とも米国株への集中投資を推奨するんでしょうか。この問題、投資対象である株式だけを考えてもあまり意味がいないと思います。なぜなら、例えば先進国株式インデックスであるMSCIコクサイ・インデックスだと、だいたい70%強が米国への投資となりますから、じつは米国株100%のポートフォリオと分散度合いとしてそれほど大きな差がないからです。

では、先進国株式インデックスと米国株式インデックスで何が大きく異なるのか。ヒントは、バフェット氏とボーグル氏のアドバイスはともに米国人に向けて発せられているということ。つまり、米国人にとって“為替リスク”は全く異なるのです。米国人にとってS&P500に投資する際の為替リスクはゼロですが、先進国株式インデックスに投資すると30%弱は外貨への投資となり、相応の為替リスクを負います。

つまりバフェット氏もボーグル氏も、一般投資家に対して優しいのです。より低リスクなポートフォリオとして為替リスクを抑えた米国株100%を勧めているのでは。ポートフォリオの目的がリターンを高めることよりもリスクを抑えることにある可能性があるのです。これは2人とも米国株と合わせて米国債への投資を推奨していること、そしてバフェット氏に至っては投資の専門家でない遺族に対する指示であることも傍証となると思います。

こうしたことを考えると、米国人が米国株に集中投資することの合理性は明白です。では、これがそのまま日本人に当てはまるかどうか。かなり事情が異なってくるでしょう。米国人にとって米国株への集中投資は為替リスクを抑えた低リスクなポートフォリオです。一方、日本人が米国株に集中投資すると、同時に米ドルへの集中投資となります。これは、かなり気合を入れてリスクをとったポートフォリオとなるでしょう。

ちなみに、トルコやブラジル、南アフリカのように自国通貨の価値が極めて脆弱な国の人なら、もう少し話は簡単かもしれません。彼ら・彼女らにとって為替リスクというのはつねに米ドルに対する自国通貨の下落リスクですから、海外投資も米国株(というよりも米ドル)への集中投資であまり問題がない。ところは日本円というのは強い通貨ですから、海外投資は為替変動による円換算価格下落のリスクを負うわけです。

ここに日本人の国際分散投資の難しさがあります。つねに為替リスクを考えなければならないからです。そして、米国株集中投資に諸手を上げて賛成できない理由でもあります。ここで、やはり相関係数が1にならない限りは、より幅広い対象に分散した方がリスクが低下するというこれまでの研究結果を生かすべきでしょう。為替リスクへの対応として投資対象通貨も分散させるべきだと思うのです。

為替というのはクロスレートで考えるべきものですから、例えば対ドルで円高になっても対ユーロで円安になることは十分ありえます。あるいは対ドル、対ユーロで円高の時、対人民元、対ウォン、対ルピア、対レアルではどうなのか。こう考えると先進国だけなく新興国にも投資する意味が少し見えてくるかもしれません(ただし、いまのところ日本円は最強通貨の一つですから、全ての通貨に対して独歩高になる場合も少なくありません)。

ひとことで国際分散投資と言っても、それぞれの国や地域あるいは個々人によって与えられた条件は様々です。このため最適解を簡単に決めることは非常に難しい。ポートフォリオこそ投資家の個性だと言われる所以です。ですから米国株に集中投資するのも、その投資家の個性です。しかし、安易な人真似は個性とはなりえません。どのような投資にしろ、投資家が自分の頭で考え、納得も得心もした上で実行することが必要です。それを欠いた投資家は予想外の結果が出た際に、それを人のせいにするといった極めて無様な醜態をさらすことになるでしょう。

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