新型コロナウイルス禍によって世界各国の経済が大きな打撃を受ける一方で、各国の中央銀行や政府による積極的な金融・財政政策によって株価は上昇を続けるという状態が続いています。なんとも皮肉な話で、新型コロナ禍は経済格差を一段と広げてしまったわけです。こうなってくると今後、もはや富裕層への増税は不可避になったと考えるべきでしょう。
現在の経済情勢に対して日本でも「分断景気」とか「K字回復」といった言葉が登場していますが、実際に失業者の増加と富裕層の資産増加が同時進行するという現象が世界各国で起こっています。とくに米国はえげつない状態となっているというニュースを見つけました。
コロナ禍のアメリカでは、ビリオネアが資産を44%増やし、8000万人以上が失業していた(BUSINESS INSIDER)
こういった問題を打開するには、もはや富裕層に対する増税しかありません。そもそも、記事にあるように米国では富裕層に対する課税が緩められてきたという経緯があるだけに、それを正常化させるという意味でも、やはり富裕層への増税は不可避でしょう。実際にバイデン政権は具体的に動き始めています。
バイデン米政権、富裕層増税を固く決意-コロナ禍の中で潤ったと判断(ブルームバーグ)
「取れるところからとるのか」という批判はあるでしょうが、やはり「担税力なきところに課税せず」というのが税制の基本原則ですから、仕方ありません。もちろん、こうした動きに対して富裕層も対策を取り始めました。
まさにあの手この手といった感じです。ただ、ここで注目すべきは、富裕層の中にも変化が生じていることでしょう。とくに若い世代の間で、社会的な認識が生じているようです。次のようの記述がありました。
UBSのジュディー・スパルソフ氏によると、コロナ流行で多くの超富裕層は社会的理念に関心を向けるようになった。特に若い富裕層の間で格差問題が話題に上ることが目立って増えたという。「確かにわれわれは成功した。一所懸命に働いて成功を手に入れた。だが回りの世界に目を閉ざすのはやめよう。自分たちだけの世界から踏み出せるようになろう」といった会話が富裕層一族の間で頻繁に聞かれると、スパルソフ氏は話した。
皮肉な話ですが、新型コロナ禍は経済的格差を押し広げる一方で、その是正の必要性を富裕層にまで認識させる契機になっているわけです。それはヘーゲル的な言い方なら“理性の狡知”のようなものかもしれません。そして、こうした側面から社会の再生が始まるのでしょう。その意味でも、もはや富裕層への増税は不可避です。そのことから目をそらす人は、あまりに鈍感だと批判されても仕方ないように思えます。