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2020年5月17日

米中対立に翻弄されるインデックス運用



2019年の世界経済を大いに揺るがした米中貿易戦争ですが、年末には一定の妥協が成立し、対立も収束の兆しを見せていました。ところが、そこに起こったのが新型コロナウイルスによるパンデミック。米国も大きな被害が出ていることから、トランプ政権は最初の感染発生地である中国の対応にへの非難を強め、再び米中の対立が激しくなっています。その米中対立が、インデックス運用にも波及する可能性が出てきました。

モーニングスターに気になるニュースが載っていました。米連邦職員や軍人が加入する確定拠出年金(401K)である連邦公務員向けTSP(Thrift Savings Plan)が運用ファンドを入れ替えようとしたところ、トランプ政権から“待った”を掛けられたそうです。

401k(米確定拠出年金)の運用資金が政争の道具に、海外株運用のベンチマーク変更に米政権が待った(モーニングスター)

連邦公務員向けTSPは年金運用のための基金ですから、基本的にいくつかのインデックスファンドで運用されています。そのうちの一つである海外株式インデックスファンド(除く米国)のベンチまマークは従来、「MSCI EAFE」だったのですが、これをさらに幅広く分散できる「MSCI ACWI ex USA」に変更することが決まっていました。

ところがこれに“待った”を掛けたのがトランプ政権。問題となったのがベンチマーク変更による中国株へ投資です。「MSCI EAFE」は先進国株式インデックスなので新興国である中国は含まれません。ところが「MSCI ACWI ex USA」は新興国を含む世界株式インデックスなので約11%が中国株に振り分けられることになり、今回の連邦公務員向けTSPがベンチマーク変更では最低でも50億ドル強の資金がファンドを通じて中国企業に投資されることになります。

これに対して「米政権では、米中貿易摩擦で問題視してきた中国による知的財産の強奪問題、南シナ海をめぐる紛争、人権問題などに加えて、「新型コロナウイルス・パンデミックへの責任」もある中国に、軍人を含めた国家公務員の資金が向かうことを問題視しているようだ」というのが今回の騒動の背景です。結局、連邦公務員向けTSPはベンチマーク変更を「延期する」ことになりましたが、対応に苦慮している様子が分かります。

まさにインデックス運用が米中対立という政治の問題に翻弄されているわけですが、非常に気になる動きでもあります。というのも、今回の米国政府の動きが他の機関投資家にも波及した場合、中国株への資金流入が大きく細る可能性があるからです。その影響は、とくに新興国株式インデックスで大きくなるでしょう。例えば代表的な新興国株式インデックスであるMSCIエマージング・マーケット・インデックスの場合、中国株は約35%を占めます。ここへの資金流入が細れば、ベンチマーク全体の騰落率にも少なからず影響があるはずです。

新型コロナ・ウイルスの登場で社会経済のあり方が大きく変わる可能性があります。それは投資の世界も同様でしょう。とくに中国に対する世界の眼は一段と厳しくなったように感じます。こうした動きが続けば、中国企業や新興国株式インデックスへの投資も少なからず影響を受けるかもしれません。私は新興国投資大好き人間なので自分の投資ポートフォリオも新興国オーバーウエートになっていますから、やはりこうした動きは注視する必要があると感じています。

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