2019年10月8日

「若者が投資をはじめたくなる」には日本の株式市場や証券会社のガバナンス改革が不可欠だ



日本証券業協会が投資促進プロモーションとして2018年から「100年大学」というサイトを開設しています。19年度は「投資はじめて学部」として“若者が投資をはじめたくなるアイデア”を募集していました。

100年大学投資はじめて学部(日本証券業協会)

学生代表の福原遥ちゃんがあまりにかわいいのでついついサイトを見てしまいます。それで肝心の“若者が投資をはじめたくなるアイデア”ですが、これはもうひとつしかないと思います。そもそも若者に限らず日本人の多くは投資に対して信頼感を持っていません。なぜなら日本の株式市場や証券会社に対する信頼感が全くないからです。だから、若者に投資をはじめてもらうためには、株式市場や証券会社のガバナンス改革が不可欠なのです。

日本では庶民の間で「株式投資はギャンブル」「個人投資家はプロの養分になるだけ」「証券会社はハメ込みで顧客の資産を食い物にしている」といったことが真面目に話されています。そして実際にそういわれても仕方のない現実があります。

日本の株式市場は上場基準の運用などが甘く、本来なら上場しているのがおかしいような企業が少なくありません。粉飾決算など不正行為をはたらいた企業さえも上場廃止になることはめったにありません。また、もはやなんの事業をやっているのかすら分からずひたすらIR芸で株価を釣り上げては市場から資金を吸い上げるだけのハコ企業や、派手なIPOで上場ゴールを決めることだけが目的だった言われても仕方ないような新興企業も少なくありません。

株式市場での不正行為も後を絶ちません。あいかわらずインサイダー取引などが横行し、発覚しても処罰は軽い。事件に発展しなくともグレーな買い煽り・売り煽り、風説の流布のような行為が多すぎます。つねに誰かをだまして金を奪おうとしているような人が出入りしているように見えてしまう。ようするに日本の株式市場は“ガラが悪い”のです。そんなガラの悪いところにまともな若者が参加しないのは当たり前です。

さらに証券会社も問題が多い。とにかく日本の証券会社は顧客の資産に対する敬意が薄い。だから平気でハメ込みのようなことをやるのです。どことは言いませんが、某大手証券会社は今年に入ってからだけで6人もの逮捕者を出しています。はっきり言って異常です。金融商品の販売をめぐるトラブルも後を絶ちません。たしかに欲をかいた顧客からの逆恨みも多いでしょう。しかし高齢の顧客との間でトラブルが多発するのは、販売時の説明が甘いか、適合性原則に反した強引な営業が原因だと批判されても仕方ないでしょう。ようするに証券会社も“ガラが悪い”のです。

証券会社にたいする信頼感のなさは絶望的なレベルにあります。少し前にカン・チュンドさんが面白いデータを紹介していました。

金融機関のNPSってなに?(ネット・プロモーター・スコア)(カン・チュンドのインデックス投資のゴマはこう開け!)

企業に対する信頼度を表すひとつの指標であるNPS(ネット・プロモーター・スコア)を紹介したものですが、これが悲惨な数字が明らかになりました。他業種と比べて証券会社のNPSはぶっちぎりの低さ。はっきり言って普通の人から証券会社は忌避されているのです。そうなるだけの悪行の数々を積み重ねてきたからにほかなりません。

もうここまでくれば、若者が投資をはじめない理由のひとつは明確です。若者もバカではありません。なぜ日本の株式市場や証券会社のようなガラの悪い世界に自分のお金を託さなければならないのか。ある意味で投資していない若者は賢明な判断をしているのです。こうしたことを考えると、100年大学が防臭している「若者が投資をはじめたくなるアイデア」は簡単です。まず日本の株式市場や証券会社のがバンスを改革し、もっと公明で正大な市場と金融機関になることが必要なのでは。それができてこそ初めて若者にたいして堂々と投資を促すことができるはずです。

そんなわけで100年大学の「若者が投資をはじめたくなるアイデア募集」に対して私は次のように回答しました。

10月31日まで募集していますから、関心のある方は応募してみてはいかがでしょう。

【関連記事】
サイコパス集団になっている日本の金融機関―かんぽ生命に見る異常な営業体質
金融機関の振る舞いが日本人の資産形成を遅らせている
証券会社のイカサマ体質が日本人の株式投資への信頼を失わせた
野村證券が謝罪するぐらい酷い営業が行われていたのだろう
日本の投資業界は“修羅の国”か―金融機関の悪行に呆れる
正しい金融知識を学ぶ場が必要だ―金融知識に「積極的に無知であろうとする」のは庶民の知恵だった

関連コンテンツ