2019年6月22日

金融機関の振る舞いが日本人の資産形成を遅らせている



金融庁が発表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」は、不幸なことに趣旨の前提条件を説明した部分だけが“老後資金2000万円”問題としてクローズアップされてしまったことで、報告書をまとめた有識者が最も真剣に議論したことが世の中に伝わらないという残念な結果となりました。この報告書の主題は、タイトルが示すように高齢化社会において資産形成・管理はどうあるべきか、それを支えるプラットフォームである金融機関はどうあるべきかを問うているのです。なぜそのようなことを金融庁と有識者は議論したのか。それは、金融機関の振る舞い自体が日本人の資産形成を遅らせているという極めて厳しい現状認識があるからにほかなりません。そしてそれは決して金融庁や有識者の勇み足ではありません。実際に日本の金融機関は倫理観が磨滅してるのではないかと思わせるような実態があるのです。

今回の報告書をまとめた「市場ワーキング・グループ」のメンバーである慶応義塾大学・駒村康平教授のインタビューが新聞に載っていました。

<「老後2000万円」問われるものは> 自助、低所得者に配慮を 慶応義塾大学教授 駒村康平氏(「日経新聞」電子版)

駒村教授は今回の炎上騒動について率直に語っているのですが、同時に報告書の本来の議題が何だったのかも明確に述べています。それは高齢化に備えて若い世代が資産形成を行えるような環境をどのように整えるべきか。また将来、高齢化によって認知機能が低下した国民が多数出てくることが間違いない中、そういった人々の財産をどのように守るのかということです。そのために金融機関は大きな役割を果たさなければならないのですが、それができていないという厳しい現状分析を示しています。駒村教授は高齢化社会においていて金融機関に求められる役割を問われて次のように答えています。
最も大事なのは高い倫理観だ。資産運用に慣れていない若い世代を支えることや高齢者の認知機能の低下を想定した場合、いまの手数料中心のビジネスモデルでよいのか。金融機関の振る舞い自体が資産形成を遅らせている可能性がある。
「金融機関の振る舞い自体が資産形成を遅らせている」という指摘は極めて厳しいものがあります。しかし、なにも駒村教授が特段に過激なことを言っているわけではありません。実際に日本で資産形成が進まない大きな要因は、金融機関が個人を食い物にするような悪行を繰り返してきたからだと言わざるを得ない現実が現在も続いています。例えば最近でも次のような報道がありました。

入金2350万円が残高5万円に 東郷証券の被害者語る(朝日新聞)

高齢者にFXをさせて資産の大半を溶かすなど無茶苦茶です。こういう事件は騙された方にも問題があるという指摘が多いのですが、被害者は70代です。加齢による認知機能の低下に付け込んだと非難されてもしかたないでしょう。これこそが金融庁が報告書の中で指摘した問題の実態です。

あるいは東郷証券のようなマイナーFX業者の問題だと事件を矮小化する声があるかもしれません。しかし、こうした問題は中小の金融機関だけでなく大手にも蔓延しています。ここ最近、不祥事続きの野村證券が当然のごとく登場しました。

野村證券でまた詐欺事件 船橋支店営業マンが担当顧客を詐欺話に勧誘、運用資産の大半が被害 野村は「警察に相談」(アウトサイダーズ・レポート)

どこまで事実かわかりませんが、仮に事実だとすると野村證券の現役営業マンが詐欺グループのネットワークに公然と組み込まれて活動していることになります。高齢者の退職金と相続遺産を食い物にしているわけですから事態は深刻でしょう。そして、こういった振る舞いには、金融機関の人間としての倫理観は微塵もありません。これもまさに金融庁が報告書をまとめる背景にある現実です。

こうした金融機関の振る舞いが根本的に粛正されない限り、日本で資産形成や投資が一般庶民に普及することはあり得ないでしょう。多くの庶民は「投資は怖い」と言います。これは言い換えると「金融機関は怖い」という意味です。そして、その庶民の感覚はある意味で正しいというのが日本の金融機関をめぐる悲しい現実です。この現実を直視せずに、今回の報告書をめぐる騒動で「金融庁、ざまあw」と思っている金融機関や関係者がいるなら、その人たちは将来、間違いなく歴史に復讐されるでしょう。

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