ザ・バンガード・グループが4月26日付でETF9本の経費率を引き下げました。
バンガードETF経費率改定のお知らせ(米国時間4月26日付)(バンガード・インベストメンツ・ジャパン)
純資産残高の増加によって運用効率が高まれば、その利潤を常に運用経費率引き下げという形で受益者に還元するバンガードの面目躍如といったところです。ただ、バンガードの偉大さは、それだけにとどまりません。もっと根本的な、運用会社としての基本構造から他の大手運用会社とは一線を画しています。そこにバンガードの本当の偉大さがあるのです。
今回の経費率の引き下げで、例えば「バンガードS&P500ETF」(VOO)や「バンガード・トータル・ストック・マーケットETF」(VTI)の経費率はわずか0.03%に。驚異的な低コストです。近年、日本でもインデックスファンドの低コスト化が急速に進みましたが、やはり本場・米国のインデックス運用はさらに一歩も二歩も先を走っているという印象を受けます。とくに日本のETFは低コスト競争が停滞していることを考えると、その姿は一段と対照的です。
純資産残高が増加して運用効率が向上すれば、その成果を経費率引き下げという形で受益者に還元するという誠実な姿勢こそ、バンガードが個人投資家から絶大な信頼を得ている理由ですが、それに加えて本当に偉大なのは運用会社としての基本構造です。そのことを再確認できる記事がブルームバーグにありました。
過熱するETF競争、ブラックロックの秘密兵器に大負けのリスク(ブルームバーグ)
バンガードと熾烈な低コスト競争を売り広げているもう一つのETFの雄、ブラックロックについて分析した記事ですが、注目すべき指摘として以下のように書いています。
大規模なiシェアーズ・コアS&P500ETFは、年間の運用管理手数料がわずか0.04%。1000ドル当たり40セントにすぎず、そんなに低い手数料でどうやってブラックロックは稼いでいるのか疑問も湧くだろう。あまり知られていないが、ブラックロックの稼ぎ頭であるETFは、その利益のかなりの部分を小規模で手数料の高い商品から得ている。ブラックロックがETFの低コスト競争を戦えるのは、実は高コストな運用商品で上げた利益のおかげだということです。そしてここからがブルームバーグの独自分析の凄いところで、ブラックロックとバンガード、そしてもう一つの大手であるステート・ストリートそれぞれのETF別収益の割合を算出しています。その結果、ブラックロックはETF収益の48%を経費率0.4%以上のETFから得ており、さらに同0.2%~0.4%のETFからの収益も30%を占めます。そして、経費率0.2%未満のETFによる収益は22%しかありません。言い方は悪いですがブラックロックの低コストETFは、高コストETFからの収益から費用を流用することで維持できているとも考えることができます。
これに対してバンガードは、なんとETF収益の92%を経費率0.2%未満のファンドから得ています。つまり運用するETFの総てが低コストであり、低コストETFだけで自立して成り立つ事業構造になっているわけです。ここにバンガードの本当の偉大さがあります。ブラックロックのように高コストETFからの収益で事業全体のコストを賄うということは、ある意味で高コストETFの受益者の利益の一部を犠牲にすることで低コストETFの受益者に便益を提供しているわけですから、運用会社として「すべての受益者の利益を専らにする」ということにはなりません。一方、バンガードはすべての受益者に対して平等にその利益を専らにしています。これこそがフィデューシャリーデューティーを本当に追求していることの証明です。
ブルームバーグの分析は図らずもバンガードの凄さを証明したわけですが、それは日本の運用業界にも鋭い批評となるでしょう。ここ数年、日本でもインデックスファンドの低コスト化が急速に進みました。しかし、日本の超低コストなインデックスファンドがバンガードのファンドように自立した収益構造を確立しているかと言えば、怪しいものです。超低コストなインデックスファンドを打ち出す運用会社が、その一方で依然として高コストなファンドを大々的に販売しているのが実態です。日本の運用会社の中にも“日本のバンガードを目指す”と言っている会社があるようですが、実際にやっていることは依然としてブラックロックのやり方にとどまっている。バンガードの偉大さは、まだまだ遥か彼方です。
もちろん、バンガードがこうしたことを実現できる背景には、同社の特殊性もあります。バンガードはファンドの受益者が同社の出資者になるという特殊な所有構造になっています。このため通常の運用会社のように収益を受益者以外の株主に還元する必要がないのです。ですから、通常の営利企業である運用会社がバンガードのようになることは恐らく不可能でしょう。しかし、少なくとも「すべての受益者の利益を専らにする」という理念は、すべての運用会社が目指すべき理想として重要なのではないでしょうか。同じ運用会社のファンドを保有していても、一部の受益者を“養分”にするようなやり方は、本当の意味でのフィデューシャリーデューティーではないはずだからです。そういった問題を浮き彫りにするという点でも、やはりバンガードの存在は偉大だと言えるでしょう。
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