老後資金の準備に関してこれまで有意義な発言を続けていたフィデリティ退職・投資教育研究所の野尻哲史さんが、ご自身も4月で定年退職となったそうです。そこで実に面白いインタビュー記事が出ていました。
山一破綻で自宅売却 プロが学んだゼロからの資産形成(NIKKEI STYLE)
いろいろと共感できる記事です。そして改めて思ったのは、老後に向けた資産形成というのは正しいやり方さえ実践できれば中高年からのスタートでも十分に間に合うということです。
山一証券出身の野尻さんですが、38歳の時にその山一証券が破綻してしまいます。マンションをローンで買っていたのですが、山一証券が金利を補助していた関係でローン契約は山一証券と野尻さんの間で結ばれており、山一廃業によってこれを一括で返済しなければならなくなったという衝撃的な内容が紹介されています。まだ若かったので退職金も少なく、おまけに老後のためにコツコツ買っていた自社株は紙屑に。ローンを借り換えようと思っても金融機関には相手にされず、結局は自宅を売却しなければならなくなったそうです。
文字通りマイナスからの資産形成となった野尻さんですが、そこで得た教訓はじつに説得力があります。それは「現金はある程度必要」「資産分散は大事」「長期投資とは『長期に投資を続けること』」というものです。いずれも資産形成にとっても非常に大事な観点です。例えば「現金はある程度必要」というのは、実際に経済的危機を経験したひとなら無条件にうなづけることでしょう。“貯金バカ”になってはいけないけれども、やはり“株式バカ”になってもいけないのです。実際に野尻さんも「ボーナスは住宅ローンの返済と貯金、ETF投資に振り分けていました」と語っています。
そして、もっとも共感したのが、38歳でマイナスからのスタートでも資産形成は十分に間に合うということです。資産形成といえばできるだけ若いうちから始めた方が有利なのですが、若いころは収入も多くないですから、そこから余裕資金を資産形成に回すというのはけっこう大変なのも現実。しかし、野尻さんのように中年からのスタートでも正しいやり方を実践すれば大丈夫だということを教えてくれます。逆に中高年の方がまとまった余裕資金を確保しやすいケースもあるわけで、それを資産形成に活かさない手はないのです。
ただ問題は、遅い資産形成スタートで“正しいやり方”が分かるかどうかということでしょう。おそらく若いうちから少額でもいいから資産形成に取り組んだ方が良い理由のひとつとして、まずは少額で“正しいやり方”がどういったものなのかを試行錯誤しながら実地で学べる点かもしれません。そうすれば、それこそ退職金で投資デビューし、金融機関の餌食になるといった悲劇は避けることができるわけです。
さて、そんな野尻さんがインタビューの最後で老後資金の使い方が重要だとして次のように語っています。
積立投資も、老後資産を作っていく方法としてはとても大事ですが、それだけで老後が楽になるわけでもありません。積立投資をしていても、退職金の一括でお金がもらえたとしても、資産が同じなら老後生活を始める条件は同じなんです。その後どうその資産を引き出していくのか、それも大事だと思っています。資産形成の方法論については、野尻さんをはじめ様々な専門家が有意義な情報を提供してくれています。そしてこれから必要になるのは、資産活用の方法でしょう。資産をどのように取り崩していくのか。私自身も40歳を超えてサラリーマン生活の後半戦が視野に入ってくると、こうした問題への興味が日々大きくなっています。定年退職して、文字通り“資産取り崩し世代”となった野尻さんには、次は“正しい資産活用術”について有意義な提言を期待したいと思います。
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