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2024年7月7日

GPIFの2023年度運用実績は+22.67%―インフレ、円安に負けない国際分散投資

 

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2023年度(23年4月~24年3月)の運用実績が発表されましたので定例ウオッチです。期間収益率は+22.67%、評価上の収益額は45兆4153億円となりました。過去最高の期間収益率です(大ニュースだと思いますが、なぜかメディアはあまり報じませんね)。これにより運用資産総額も245兆9815億円となり、こちらも過去最高を更新しています。詳細は業務概況書で確認できます。


日本株を中心とした好調な相場に支えられ、素晴らしい成績となりました。今回、GPIFの運用成績を見て改めて感じたのは、インフレや円安に負けない国際分散投資の威力です。

2023年度は、世界的なインフレ高進と金利上昇(債券価格下落)という不安定な環境下でスタートしましたが、終わってみれば第2四半期(7月~9月)に若干のマイナスリターンとなったほかは好調な運用成績が続いています。資産別カテゴリーで見ると、国内株式が+41.41%という素晴らしい数字に。いかに日本株が好調だったかが分かります。さらに外国株式も+40.06%。これは円安による円換算価格上昇が大きく寄与しています。同様に円安の恩恵を受けて外国債券も+16.83%でした。一方、国内債券は-2.0%。日銀の金融緩和が修正されつつあることによる債券価格下落(金利上昇)が効いています。

パッシブ運用中心の手堅い運用が特徴のGPIFですが、2023年度も市場の好調をしっかりと取り込むことに成功しています。結局、年金基金のように巨額の資金を運用する場合、インデックスを活用したパッシブ投資が最適解だというごく当たり前の結論を今回も見せてくれました。その上で改めて感じたのは、国内外の株式と債券に投資するという国際分散投資の威力です。世界的にインフレが続き、日本も例外ではなくなりつつあります。しかし、資産カテゴリーの中でもっともインフレ耐性がある株式に投資することで、インフレ率に負けないリターンを確保できています。また、最近の円安によって日本の円の実質価値が大きく低下しているわけですが、やはり海外の株式と債券に投資することで円安による円の実質価値低下を補っているのです。これこそ国際分散投資の威力です。

さらに国際分散投資の威力を高めているのが資産配分を一定にし、定期的にリバランスしていることです。GPIFの基本資産配分は4資産カテゴリー均等配分ですが、これを維持するために2023年度は国内株式を7兆9872億円、外国株式を6兆8221億円売却し、国内債券を12兆4780億円、海外債券を2兆8209億円購入しています。よく「GPIFの運用成績は単なる含み益であり、利益確定していないので意味がいない」などと批判する人がいるのですが、実際はリバランスによって一部利確しているわけです。そして利確した資金で値下がりしている資産をナンピン買いしている。こうすることによって長期でのリスクを下げ、さらには運用への効果も期待できる(いわゆる“リバランス・ボーナス”)。実際、値上がりした株式を売った資金で、利回りが上昇した債券を購入しているわけですから、これが将来の株価下落(債券価格上昇)局面でポートフォリオ全体のショックを和らげてくれる可能性があるわけです。こうしたことも含めて、やはりGPIFの運用は個人投資家にとってもお手本となるものです。

そして先日、5年ごとに政府が実施している公的年金の財政検証の結果が発表されました。原資料だけでは非常に分かりにくいので、NHKの解説も紹介しておきます。



これによると厚労省は2019年の前回検証と比べて将来見通しが改善されたとしています。その要因として、女性や高齢者の労働参加が進んだことや外国人の増加で少子高齢化の影響が緩和されたことに加え、株価の上昇を背景に積立金が増えたことがあります。GPIFが運用する年金積立金は年金財政全体で見ればわずかな額であり、調整弁のひとつにすぎませんが、もともと年金財政というのは高度な数理計算に基づいて組み立てられているものですから、わうかな調整弁でも、その意味は大きい。やはりGPIFの運用が年金財政の改善に役立っているわけで、それは現役世代の将来負担を少しでも軽くすることを意味します。

それにしても、GPIFが今回のような成果を上げることができたのは、やはり安倍首相が2014年に決断したポートフォリオ改革の成果です。それまでは資産の60%を日本国債で運用していたわけですか、もしそれが今も続いていたら悲惨な結果となっていたことでしょう。この点に関してフィナンシャル・タイムズが興味深い記事を載せています(有料記事なので、な要点を抜粋引用した竹中正治さんのtweetも紹介します)。

日本では依然として年金基金を株式で運用することを批判する人がいますが、これが世界の見方です。そして、実際に日本の公的年金改革を羨ましく思っている国も少なくないということを指摘しておきたいと思います。 

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