ときどき「?」な記事が掲載されるモーニングスターですが、またまた奇妙な記事が出ていました。
常にプラスの収益効果、「インカムゲイン」を狙うファンドに根強い人気(モーニングスター)
たしかにインカムゲインだけを見れば「常にプラスの投資効果」となるわけですが、それによって元本部分が減価して、インカムゲイン以上にマイナスの収益効果となってしまえば、投資として意味がありません。投資の成果というのはインカムゲインとキャピタルゲインを合わせたトータルリターンで判断すべきです。この点に関して、水瀬ケンイチさんが記事へ的確な批判をしていて、私もまったく同感です。
インカムゲインを狙うファンドは「常にプラスの収益効果」で根強い人気ってあなた… (梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記))
では、モーニングスターの記事が紹介するファンドとは関係なく、実際にトータルリターンで“常にプラスの収益効果”を得ることのできる投資方法や投資対象は存在するのでしょうか。じつは存在します。しかも、古典的な投資方法としてです。
ファンドの分配金や個別株の配当金でどれだけ「インカムゲイン」があったとして、トータルリターンがマイナスでは意味がないわけですが、では長期保有した結果としてインカムゲインの累計が投資元本の金額に達するとどうなるでしょうか。その場合、投資元本は既に回収したことになるので、その後のインカムゲインは“常にプラスの収益効果”となります。そして、こういったことは長期投資ではあり得ることなのです。
例えば配当利回りが毎年平均して3%程度ある個別株を100万円分購入したとします。計算モデルを単純化するために株価はヨコヨコで推移し、増配・減配もあまりないと仮定すると、毎年3万円程度のインカムゲインを得ることになります。すると34年でインカムゲインの総額は102万円。この段階で投資元本は回収されますから、その後の配当は“常にプラスの収益”となります。インカムゲインで投資元本を回収した後なら、倒産などで株価がゼロになっても、トータルリターンはマイナスになりません。
さらに株価の変動を利用する方法もあります。例えば株価が上昇するのをじっと待って、2倍になった段階で保有する株の半分を売却するのです。そうすれば投資元本は回収され、残った株の配当や場合によっては売却益も、やはり“常にプラスの収益効果”となります。
実際は株価の変動や配当政策の変更などがありますから、そうそう計算通りにはいきません。最悪の場合、配当で投資元本を回収し終わる前に投資対象企業の破綻などに見舞われ、トータルリターンがマイナスになることもあります。しかし、少なくとも理論上はインカムゲインや部分的なキャピタルゲインを得ることで投資元本さえ回収してしまえば、その後はトータルリターンでも“常にプラスの収益効果”を得ることが可能なのです。そして、これは「恩株」という古典的な投資方法です。
もちろん、恩株にはデメリットもあります。ひとつは、非常に長期に渡る投資が必要なこと。場合によっては1世代では無理で、相続を経て2世代、3世代かけて実現するケースもあります。もうひとつは、配当などを通じて結果的に部分的な利益確定を繰り返すことになるので、配当再投資と比べるとトータルリターンは小さくなります。
なぜこういったことを書くのかというと、個別株の配当金やファンドの分配金を重視するというのは、それもひとつの立派な見識であることを指摘したかったから。トータルリターンの最大化を目指すなら配当や分配金を再投資することがもっとも合理的ですが、一方で配当や分配金をもらうことは、その分だけリスクを低下させる面があるわけです。そして、ついには“常にプラスの収益効果”すらも得ることができると。これもまた長期投資の功徳でしょう。
私の場合、インデックスファンドは分配金再投資によるトータルリターンの最大化を目指して運用していますが、個別株は永久保有によって恩株化するのが目標。どちらも投資の方法論として十分にあり得るのです。