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2021年5月4日

4年ぶりに登場した“1兆円ファンド”の内実―本当に「資産形成」に使えるファンドなのか

 

4年ぶりに純資産残高1兆円を超える投資信託が登場し、しかも従来のような毎月分配型ファンドでないことに注目する記事がモーニングスターで出ていました。


記事では「4年ぶりに誕生した久々の1兆円ファンドだが、かつて市場を席巻した「毎月分配型」とは異なり、極力分配金を出さずに、中長期の資産形成に資するファンドという特徴がある。新しい投信市場の幕開けを予感させる動きだ」と特筆しているのですが、実際に当該ファンドの目論見書を読むと、なんとも釈然としないものがあります。はたしてこの“1兆円ファンド”は、本当に「資産形成」に使えるファンドなのでしょうか。

記事にもあるように、日本ではこれまでもいくつか純資産残高が1兆円を超えるファンドが登場していますが、そのほとんどは毎月分配型ファンドでした。こうしたファンドが人気を集めた理由は、やはり記事が指摘するように「年金受給を受けている高齢者が、「年金プラスアルファ」を得るために、運用しながら資産を取り崩す手段として活用された」からです。

ただ、毎月分配型ファンドは分配金の原資を得るためにオプション取引を組み入れたものが登場するなど運用方法が複雑化し、元本取り崩しである特別分配金も乱発されるようになったことで運用実態が受益者に見えづらくなりがちに。それに対して金融当局からの批判も高まり、現在ではかなり下火になっています。

こうした中、4年ぶりに登場した“1兆円ファンド”がアセットマネジメントOneの「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)」。原則として分配金を払い出さずに、株式の配当等で得た資金等や売買益は再投資に回して資産の成長をめざすファンドだであることから、「中長期の資産形成に資するファンド」としてだと記事では評価されているわけです。

ところが、実際に「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)」の目論見書を読むと、なんとも釈然としないものがあります。とても「中長期の資産形成に資するファンド」だとは思えない点があるからです。

最大の疑問点は信託期間です。このファンドは2020年7月20日に設定されたのですが、信託期間は2030年7月12日までの10年間しかありません。はたしてこれで「中長期的な資産形成」に使うことができるでしょうか。10年というのは一般的に長期投資の初期段階ぐらいの期間にすぎんません。もちろん、信託期間が延長される可能性はありますが、やはり最初から「無期限」とうたわないところに志の低さを感じます。

また、信託報酬は1.848%(税込み)とかなりの高コスト。アクティブファンドは信託報酬の高さを一概に批判するべきではありませんが、とはいえアクティブファンドの中でも割高な水準の信託報酬ですから、それに見合った付加価値を受益者に提供する必要があるでしょう。それを長期に渡って提供できるかどうかは、いまのところ未知数です。ちなみに設定来のリターンはMSCIワールド(配当込み、円ベース)、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込、円ベース)いずれに対しても大幅に劣後しているのも心細い点です。

そしてなにより釈然としなかったのが、2020年7月に新規設定されたファンドが、2021年2月には純資産残高が1兆円を超えるという急成長ぶりです。設定当初から急速な資金流入となっていりますが、こうした資金は、とても「中長期的な資産形成」のための資金には思えません。逆に、かつての毎月分配型ファンドと同様、日本で定期的に登場する“人気ファンド”に典型的な資金流入のパターンです。

もちろん「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)」が悪いファンドだと言いたいわけではありません。運用戦略自体は非常に現代的で興味深いものがあります。ただ、モーニングスターの記事にある「新しい投信市場の幕開けを予感させる動きだ」というのは、ちょっと言いすぎでしょう。それどころか、あいかわらず日本の投資信託市場でよく見かえる光景にすら思えます。

実際のところ「新しい投信市場の幕開けを予感させる動き」は、もっと別のところに現れているのでは。例えば、恐らく積立投資による資金流入が大部分を占めるであろうニッセイアセットマネジメントのインデックスファンド「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」は、単独ファンドとして純資産残高が2700億円を超えました。三菱UFJ国際投信のインデックスファンドリリース「eMAXIS」は、「eMAXIS Slim」を含めたシリーズ全体の純資産残高合計が1兆4000億円を超えています(いずれも2021年4月末現在)。

こうした動きの方が、よほど「新しい投信市場の幕開けを予感させる動き」です。それと比べれば、4年ぶりに1兆円ファンドが登場したことなど些細な出来事に思えます。それが今回感じた“釈然としないもの”の正体です。

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