改正確定拠出年金法が成立し、2017年1月からほとんどの現役世代が確定拠出年金に加入できるようになったことで、すでのいくつかの解説書が出ています。より踏み込んだ内容の参考書を求める人にお薦めなのが、山崎元さんの『確定拠出年金の教科書』です。文字通りスタンダードな教科書ともいうべき仕上がりの1冊ですが、そこはいつもの“山崎節”が炸裂していて、まさにホンネで書かれた教科書になっていました。
本書は冒頭の「第1章 確定拠出年金で、何がどれほど得になるのか」で、なぜ確定拠出年金制度を活用しなければ“損”なのかということを丁寧に説明してくれます。通常、投資や資産運用において“絶対に儲かる”という商品はそれこそ絶対に存在しないのですが、確定拠出年金の場合は、個人型なら掛金が全額所得控除され、運用益も非課税。そして換金時には退職所得控除と年金所得控除が使えるため、少なくとも節税分は“絶対に儲かる”仕組みになっているのです(税制変更リスクはいったん措いておきます)。
さらに「第2章 なぜ今、確定拠出年金が話題なのか~政府の思惑、企業の本音~」は、いかにも山崎さんらしいホンネの書きっぷり。そもそも、なぜいま政府が確定拠出年金制度の拡充を進めたのか。それは、公的年金の将来的な縮小が避けられず、そのための自助努力をやってくれと言うメッセージが込められているということです。これは山崎さんが常々指摘していたことですが、私も全く同じ印象を持っています。こういうホンネを理解している人と、そうでない人では、資産形成に対する構えが異なってくるでしょう。
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以下、「第3章 確定拠出年金の始め方」「第4章 確定拠出年金を「合理的」に使いこなそう」「第5章 確定拠出年金の諸手続きについて」「第6章 変化に対応する」の各章も丁寧な解説が続き、加入や移換、そして給付手続きにまできちんと目配せしているのは、本書が“教科書”を名乗る所以です。おそらくこれ1冊で、確定拠出年金に関する基本的な知識はすべて理解することができるでしょう。
肝心の活用法についても、もっとも「合理的」な方法が紹介されています。そのれを表すのが、以下の確定拠出年金3原則です。
1.確定拠出年金は、可能な限り「大きく」使うこのうち、1と3については大賛成。せっかく国が有利な制度を用意してくれているのですから、拠出枠は可能な限り大きく使うことは重要です。また、運用商品は低コストなインデックスファンドを選ぶのがもっとも合理的。なぜなら、確定拠出年金専用ファンドと一般販売されているファンドを比較すると、もっとも手数料に差が出るのがインデックスファンドだからです。確定拠出年金でしか買うことのできないお宝ファンドが存在するのだから、それを選択するというのは当たり前のことです。
2.確定拠出年金は、自分の運用全体の「一部」として扱う
3.運用商品は、手数料が安くて「シンプル」な物を選ぶ
さて、問題は2です。山崎さんはアセットアロケーション全体でもっとも期待リターンの高い資産カテゴリーを確定拠出年金に割り当てるべきであり、具体的には外国株式インデックスファンドと日本株式インデックスファンドを割り当てることを推奨しています。つまり、確定拠出年金の口座だけでポートフォリオを最適化するべきではないとしています。たしかに運用効率を考えれば、山崎さんの考え方は正しい。しかし、ここは意見の分かれるところだと思います。じつは私も確定拠出年金をアセットアロケーション全体から特定の資産カテゴリーを割り当てることはせず、加入している個人年金保険と合わせて別勘定でポートフォリオを組んでいます。なぜそうするのかというと、通常の資産とは流動性の面で大きな違いがあるからです。また、運用の自由度も制限されるという問題があります(このあたりの個人的な考え方については、いずれ別稿で紹介したいと思います)。
しかし、自分のやり方に山崎さんの推奨する確定拠出年金活用方法から外れる部分があっても、別に心配する必要はありません。なぜなら、ここで紹介されているのはあくまで模範解答だから。やはり本書が教科書たる所以でしょう。そして、教科書的な模範解答を理解していない人は自主的なアレンジも上手くできません。やっぱり教科書的な知識や理解というのは欠かせないものなのです。
そういったことも含めて、本書は現時点でもっとも良質でスタンダードな確定拠出年金についての解説書だと断言します。これから個人型確定拠出年金に加入しようと検討している人、あるいは企業型確定拠出年金に加入する新社会人にとって、もっともお薦めできる1冊です。
【補足】
本書の事例説明の一部で誤りがあったため、山崎さんの公式ブログで訂正が出ています。
【告知】「確定拠出年金の教科書」一部修正します(評論家・山崎元の王様の耳はロバの耳!)
【追記】
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