森本紀行さんが率いる投資運用会社であるHCアセットマネジメントがこのほど「フィデューシャリー宣言」を発表しました。
フィデューシャリー宣言を公表しました(HCアセットマネジメント)
金融庁が昨年発表した金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針)の中で金融機関に対してフィデューシャリー・デューティーの実践を強く求めていることに対して自主的に呼応したものです。行政による規制や指導によってではなく、あくまで投資運用会社として主体的に宣言するという姿勢は特筆ものですが、実際に宣言の中身を読んでビックリ。あまりの徹底ぶり、ラディカルさに感心しました。
HCアセットマネジメントは年金基金など機関投資家を対象とした運用会社なので、一般の個人投資家にはほとんど知られていないのですが、代表の森本紀行さんは知る人ぞ知る大物でして、“森本節”とでもいうしかない歯に衣着せぬ発言に、いつも感心していました。そのHCアセットマネジメントのフィデューシャリー宣言の中身がスゴイ。
フィデューシャリー宣言(HCアセットマネジメント)
とくに1項の「利益相反の禁止」などは、森本さんの徹底した考え方を表しています。こうした考え方に立てば、日本の投資信託の多くに見られるような委託会社(運用会社)、受託会社(信託銀行)、販売会社(銀行・証券会社)が同じ金融グループに属するようなあり方はフィデューシャリー・デューティーに反するということになります。
なぜかというと、例えば信託報酬を考えた場合、委託会社は受益者の利益を最大化するのがフィデューシャリー・デューティーにかなうわけですから、受託会社や販売会社に支払うフィーを最小化する努力が求められる。しかし、委託会社と受託会社、販売会社が同じ金融グループに属していると、当然ながらグループとしては3者全体での報酬が大きい方が営利企業として望ましいということになる。それが受益者と運用会社の利益相反になるということです。
だから宣言の2項で「報酬の合理性」が導入されているのは、たんなるお題目ではありません。そもそも合理性の判断は、極めて難しいものです。しかし、少なくとも運用関係者に利益相反が疑われる関係があった場合、報酬水準が「合理的」だとは完全に信じることはできなくなります。この宣言の1項と2項には、そういった厳しい考え方を表しているといえるでしょう。
このように受益者に対するフィデューシャリー・デューティーを徹底して実践していこうとする運用会社があることを大手運用会社もよく見た方いい。はたして運用会社と販売会社の関係は、受益者に対する利益相反になっていないか。あるいは利益相反を疑われるような報酬水準や報酬分配がまかり通ていないかを自省してもらいたいものです。そいう意味でも、今回のHCアセットマネジメントによる「フィデューシャリー宣言」が、投資信託業界にも一石を投じるものになって欲しいと思います。