投資理念について書かれた本はたくさんありますが、それが一種の人生哲学にまで昇華され、普遍的価値を持つまでになったものがあります。その中でも私がとくに影響を受けたのは本多静六博士の私の財産告白 (実業之日本社文庫)です。
貧困から身を起こして東京帝大教授となり、造林・造園学の第一人者として日比谷公園の設計者としても知られる著者は、「収入の四分の一天引き貯蓄法」と株・不動産などへの分散投資によって億万長者となります。しかし、そうした蓄財・投資ノウハウは、本書が名著といわれる所以ではありません。本書の最大の眼目は、仕事に全力を挙げ、そこに喜びを見出す「仕事の道楽化」こそ人生の幸せであり、それさえできれば金などは「仕事の粕(カス)」にすぎないと看破するところです。
本多博士は書いています。
人生の最大幸福は職業の道楽化にある。(略)おのおのその職業、仕事に、全身全力打ち込んでかかり、日々のつとめが面白くてたまらぬというところまでくれば、それが立派な職業の道楽化である。(略)多くの場合、その仕事の粕として金も、名誉も、地位も、生活も、知らず識らずのうちに恵まれてくる結果となるとなるのだから有難い。では、仕事を道楽化するためには、どうすべきか。本多博士の回答は実に明確です。とにかく勉強するしかないと。
商人でも、会社員でも、百姓でも、労務者でも、学者でも、学生でも、少しその仕事に打ち込んで勉強しつづけさえすれば、かならずそこに趣味を生じ、熱意を生み、職業の道楽化を実現することができる。こういう境地に達すると、もはや蓄財は人生の手段にすぎなくなります。だから最後は資産をほとんど寄付してしまう。しょせん金などは「仕事の粕」なのだから。ここまでくれば、すでに“達人の境地”です。
もちろん本書には蓄財・財産形成のノウハウも豊富に記載されています。それがまったく古びていません。さらに財産をどうやって使うかというところにまで踏み込んでるところも素晴らしい。いわば、資産形成の初歩から奥義までを明治人らしいユーモアのある文体で教えてくれる1冊です。良き人生をおくるためのヒント集でしょう。