昨日、日興アセットマネジメントが信託報酬0.05775%(税込み)の全世界株式インデックスファンド「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」を新規設定するという情報をお伝えしました(超弩級の低コスト全世界株式インデックスファンドが日興AM「Tracers」シリーズに登場か)。そこで三菱UFJ国際投信の「eMAXIS Slim」が従来の戦略通り追随して信託報酬を引き下げるかが焦点になる指摘したのですが、どうやら対抗値下げはしないのではという報道がありました。
三菱UFJ国際投信の言い分として記事は次のように書いています。
Tracersオールカントリーは、「指数の標章使用料」が信託報酬に含まれず、また年率0.1%を上限とした額をその他手数料から徴収できると、有価証券届出書に記載している。指数の標章使用料、つまり連動する指数であるMSCI ACWIの使用料は各社とも非公開だが、信託報酬がこれだけ下がる中では小さな額ではない。「弊社ファンドでは、指数の標章使用料は信託報酬率に含めており、信託報酬水準が公正な比較対象とならないため、現時点では追随しない方針」(三菱UFJ国際投信)
なるほど、「Tracersオールカントリー」は信託報酬0.0577%ですが、従来は信託報酬に含まれていた指数のライセンスフィーなどが別途加算されるため、実質コストは安くならない可能性があるということです。
現在、インデックスファンドの低コスト競争は、日本の投信市場の規模を考えると、ほぼ行き着くところにまで行き着いている感があります。そのため、もう一段の低コスト化を実現するためには、従来とは異なるアプローチが必要になってきました。「Tracersオールカントリー」のように指数のライセンスフィーなどを信託報酬から外出しするという手法もあり得るわけです。
ただ、三菱UFJ国際投信はこうしたテクニカルな方法を採用したファンドとは競争しないという姿勢なのでしょう。実際にこれまでも期間限定で信託報酬がゼロになる野村アセットマネジメントの「野村スリーゼロ先進国株式投信」に対しては、ほとんどリアクションをしていません。
いずれにしても、まずは「Tracersオールカントリー」の初年度決算が注目です。そこで実質コストがどうなるか。また、それを受けて、その時こそ「eMAXIS Slim」がどう動くか。おりしも2024年から新NISAが始まります。
日興AMの「Tracersオールカントリー」だけでなく、他の運用会社も今後は新NISAに向けてユニークな超低コストインデックスファンドを出してくるでしょう。どうやら今年は、新NISAに向けた運用会社間の鞘当てが激しい年になりそうです。
【ご参考】
「Tracersオールカントリー」がどのようなテクニカルな手法で信託報酬を低く設定したかは、安房さんが詳細な分析記事を書いていて参考になりました。
「eMAXIS slimの半分の信託報酬」を掲げる日興Tracersオールカントリー登場。それは単なるバグ技なのか、業界改革の嚆矢となるのか(海舟の中で資産設計を ver2.0)
【追記】
三菱UFJ国際投信がリリースを発表していました。
『eMAXIS Slim(イーマクシス スリム)』シリーズの基本理念について(三菱UFJ国際投信)
「eMAXI Slim」シリーズではファンドの計理業務や目論見書・運用報告書の作成にかかる費用、対象指数の商標使用料などを信託報酬に含めているが、競合の類似ファンドでは信託報酬とは別にファンドに請求しているところがあるとしています。なので、対抗値下げは行わないということでしょう。競合ファンドが「Tracersオールカントリー」のことを指しているのは明白です。