2021年8月30日

個別株投資の苦しさと面白さ―日本郵船の株価が火を噴く

 

私はインデックス投資をポートフォリオのコアにしながら、サテライトとして日米の個別株投資も楽しんでいるんですが、ここにきて個別株の評価額が急騰しています。理由は、保有している日本郵船の株価が火を噴いたからです。思い返せば日本郵船株を購入してからというものいろいろありました。しかし、これこそ個別株投資の苦しさと面白さだと改めて感じています。

現在、日本郵船をはじめとした海運株は絶好調です。背景にあるのが新型コロナウイルス禍によるコンテナ不足です。感染症対策が必要になったことで世界的にコンテナターミナルの稼働率が低下してコンテナ不足となってているところに、ワクチン接種進展による経済正常化への動きから物流需要が増加しました。このため物流の受給バランスが一気にタイト化し、運賃が急騰しているわけです。このため海運会社の収益も増加したという構図です。

このため日本郵船の株価も今年1月4日には2401円だったものが、8月27日には8340円となっています。とくに8月に入ってからの上げは激しく、一気に3000円近く上昇しました。まさに火を噴いている状態です。このため私の個別株ポートフォリオの評価額も急増しました。

日本郵船の華麗な復活には、株主として感慨深いものがあります。私が日本郵船の株を買ったのは2015年で、購入価格は1株3390円でした(1対10の株式合併前なので、当時の株価は1株339円)。この時、バリュエーションとしてはとくに割高感もなく、かなり満足した投資だったのです。


ところが2016年に入ると、突如として海運不況に突入します。日本郵船も深刻な経営不振に見舞われ、無配転落します。ライバルだった韓国の韓進海運は破綻しました。日本の海運会社も苦戦するコンテナ事業の構造改革に着手し、日本郵船のほか商船三井、川崎汽船の大手3社でコンテナ事業を統合し、合弁会社のオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)を設立することになります。当然、株価は大暴落し、一時は1700円台になりました。当然、大きな含み損を抱えたわけですが、それでもまだ日本郵船という企業の価値を信じてホールドを続けたのです。


その後、業績は徐々に持ち直し、2018年度には復配します。ただ、株価の方は依然として冴えず、2019年8月には1500円台まで下げます。ますます含み損が拡大しました。しかし、あい変わらず損切はしませんでした。企業としての方向性は間違っていないと感じていたし、なにより日本郵船という会社が担わされている社会的役割を考えたとき、このまま終わるとは思えなかったのです。そうしたこともブログでは書いてきました。


そして2020年3月、“コロナ・ショック”が起こります。世界の経済がストップする中、海運株に対する悲観論も高まり、日本郵船の株価は一時1200円台まで下げます。私の評価額は、購入時の3分の1近くまで下落しました。しかし、不思議なことに、この時はそれほど心配しませんでした。なぜなら、企業が本来持つ価値に対して、明らかに異常値と言える株価だと感じたからです。この予感が当たったそこから華麗な復活が始まります。株価は上昇を続け、ここにきてさらに加速していきました。配当も一気に増えていきました。

たとえパンデミックになろうとも、やはり世界中に誰かが物を運ばなければならない。海運業というのは、まさにエッセンシャルな産業だったのです。それが“コロナ・ショック”の寄って、かえって可視化されたとも言えそうです。2015年に日本郵船の株を購入した際、私は次のように理由を説明しました。
そもそも海運業というのは長期的に見れば成長産業です。これは当たり前の話で、経済がグローバル化し、国際分業が高度化すればするほど、誰かが原料、部品、完成品を運ばなければなりません。地球表面の7割は海ですから、船で運ぶしかないのです。そして日本郵船は、日本最大の海運会社であり、世界でもデンマークのマースクに次ぐ売り上げ規模です。じつに面白いではないですか。海運株は景気敏感株の代表的な銘柄であり、リスクも高いとされますが、無くなることは考えられない事業ですから超長期で保有して、それこそ遠洋航海のようにときには嵐にも遭いながらゆっくりと成長してくれることを期待しています。
まさに私の投資ストーリーが的中したわけです。これこそが個別株投資の面白さです。しかし、こうした面白味を享受するためには、途中の苦しさも受け入れる必要があるということです。そして、苦しさを耐えるために必要なのは、やはり投資対象の株価ではなく、それが持つ本質的な価値を考えることでしょう。その社会的意義の有無を吟味することでしょう。

そういった本質的な認識を持たない限り、長期投資というのは難しい。個別株投資は、とくにその傾向が強いと思います。そういうことを改めて考えさせられたという意味でも、やはり日本郵船という会社は私の個別株ポートフォリオの中でもお気に入りの銘柄なのです。

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