年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2019年度第2四半期(7~9月)運用状況が発表されましたので定例ウオッチです。7~9月の期間収益率+1.14%、帳簿上の運用益は+1兆8058億円でした。市場運用開始来の収益率は年率+3.02%となり、運用資産額は161兆7622億円となりました。
2019年度第2四半期運用状況(速報)(GPIF)
世界的な金融緩和の動きもあって7~9月は堅調な運用結果となりましたが、それゆえにかメディアではあまり話題になっていません。やはりGPIFはマイナスリターンにならないとニュースにならないという悲しい扱いが続いているのでした。
7~9月は国内株式が4~6月の低迷から回復し、資産別収益率は国内株式が+3.34%となるなど全体のリターンを牽引しました。また、外国債券が+1.21%と安定していることも見逃せません。為替がヨコヨコで推移すれば外国債券への投資には妙味があることが分かります。一方、外国株式は+0.11%となり、こちらもほぼ横ばいで推移しています。国内債券は+0.31%となり安定していました。利子・配当収入は6345億円でした。4~6月に続いて国際分散投資の成果が出ていると言えるでしょう。GPIFの髙橋則広理事長のコメントです。
2019年度第2四半期(7月~9月)は、世界経済減速懸念への対応として、米国連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)が政策金利の引き下げなどの金融緩和を行ったことなどから、世界的に金利は低下し、株価は上昇しました。一方で、為替は対ドルでは概ね横ばいとなりましたが、対ユーロでは円高が進行しました。このような結果、7月から9月までの運用資産全体の運用実績はプラス1.14%となりました。堅調な運用結果となったわけですが、それよりも今回の発表で注目すべきは、これまで開示されていた資産別資産額・構成割合と資産別収益額が非開示となったことです。この点に関して髙橋理事長が以下のように理由を説明しています。
当法人では、現在、基本ポートフォリオの見直しに向けた議論が行われています。そのため、年金積立金の価値を保全する観点から、経営委員会における議論を踏まえ、今年度中は、資産別資産額・構成割合及び資産別収益額を開示しないこととしました。なお、これらの情報は、来年度に公表する2019年度業務概況書で記載いたします。GPIFのポートフォリオの資産配分は短期的な市場動向によって変更するのではなく、基本ポートフォリオを定めて長期間維持することが原則となっています。しかし、中長期では市場環境が明らかに変わりますから、定期的な見直し作業が行われます。これまでも2009年、2013年、2014年に基本ポートフォリオの見直しが検討されています(実際に資産配分が変更されたのは13年と14年)。こうした場合、事前に基本ポートフォリオに関する情報を開示してしまうと、実際にポートフォリオの組み換えのための売買を行う前に、他の市場参加者によって先回りで反対売買されてしまう危険性があるということでしょう。やはり160兆円を超える巨額の資金が動くわけですから、マーケットへの影響は甚大なのです。
今後、どのような形で基本ポートフォリオが見直されるのか注視したいと思いますが、やはり焦点になるのは債券への投資のあり方でしょう。日銀による金融緩和が続いていることで国内債券を中心にマイナス利回りの債券が増えていますから、債券投資は非常に難しい局面にあります。このため既に為替ヘッジ付き外国債券の活用など対策が検討されているようです(関連記事:マイナス利回りの国債は買えない―GPIFが為替ヘッジ付き外国債券を国内債券扱いに変更)。
これまで順調に運用資金を増やしてきたGPIFですが、市場環境は一段と難しい舵取りが求められるようになってきましt。引き続き頑張って欲しいと思います。
【補筆】
ところで、GPIFは10月18日付で髙橋理事長を減給処分としています。
役員の制裁処分の実施について(GPIF)
このようなガバナンス上の瑕疵は非常に大きな問題です。発表にもあるようにGPIFの行動規範をいま一度確認し、綱紀粛正に取り組んで欲しいと思います。それはいずれ運用の“質”に影響する問題だからです。
【ご参考】
日本の社会保障制度について勉強するなら、権丈善一先生の『ちょっと気になる社会保障 増補版』が最良の入門書です。また、現在の公的年金制度を徹底的に利用するための戦略書として田村正之さんの『人生100年時代の年金戦略』が非常に網羅的にまとめられていてお勧めです。