仕事納めも無事終わり、ゆっくり年末休みを謳歌していたのですが、インデックス投資業界ではビックニュースが飛び込んできました。三菱UFJ国際投信の超低コストインデックスファンドのひとつである「eMAXIS Slim先進国株式インデックス」の信託報酬が2018年1月30日から更に引き下げられます。引き下げ後の信託報酬は、なんと年率0.1095%(税抜)です。
業界最低水準の運用コストをめざす『eMAXIS Slim(イーマクシス スリム)』信託報酬率の引き下げを実施(三菱UFJ国際投信)
驚異的な低コストです。そして、こうした三菱UFJ国際投信の動きに見える戦略には、ほとほと感心してしまいました。
「eMAXIS Slim先進国株式インデックス」は2017年10月に信託報酬を0.19%に引き下げたばかりですが、ここでまたまた大幅引き下げに踏み切りました。背景にあるのは競合ファンドの動きです。まで正式リリースはありませんが、SBIアセットマネジメントが低コストな海外ETFに投資する「EXE-iつみたて」シリーズとして「EXE-iつみたて先進国株式ファンド」(実質的な信託報酬:0.110%程度)をローンチするという情報がEDINETに上がっていますから(アウターガイさんのブログ参照)、これに対抗した動きでしょう。
つくづく凄い時代になったものです。わずか数年前までは先進国株式インデックスファンドの信託報酬が0.1%程度になるなど想像もできませんでした。日本もついに米国並みに極めて低コストでインデックス投資ができる時代が近づいたということです。そしてこうした動きの前提にあるのは、「インデックスファンドはコスト最安値の商品だけが生き残る」という極めて冷徹な現実です。インデックスファンドの品質基準はコスト以外にもありますが、投資家が事前に判断できる基準はコストしかありません。だからこそコスト最安値のファンドに資金が集中する。2番手、3番手では投資家に評価されないのです。
その意味で三菱UFJ国際投信の果敢な動きは評価できます。恐らく現段階では「eMAXIS Slim」単体では採算割れでしょうが、それは企業としての先行投資というものでしょう。一時的には採算度外視でも、徹底して競合ファンドを潰しにいく姿勢は、さすが「三菱」だと空恐ろしくなりました。やはり「三菱は国家なり」なのでしょう。そして、こうなってくると競合ファンドの動きも気になります。「<購入・換金手数料なし>」のニッセイアセットマネジメント、「たわらノーロード」のアセットマネジメントOne、「iFree」の大和証券投資信託委託がどう動くか。はっきりしているのはインデックスファンドの競争において、低コスト競争から脱落すれば、そのファンドの将来は非常に暗いものになるということです。過去にも低コストなインデックスファンドとして一世を風靡した商品が、現在はすっかり時代遅れの商品として忘れさられようとしていることが、それを証明しています。
投資家のレベルに合わせて異なる報酬体系を用意する三菱UFJ国際投信
ここからは業界三国志的な個人的雑感ですので興味のある人だけ読んでください。
「eMAXIS Slim先進国株式インデックス」の採算度外視とも思える信託報酬引き下げを見て、三菱UFJ国際投信の戦略にほとほと感心しました。それは投資家の情報リテラシーに合わせて異なる報酬体系を用意することで、運用会社としての総体としての収益を維持しながら、競争においても圧倒的なプレゼンスを維持しようという戦略が垣間見えるからです。
三菱UFJ国際投信は現在、マザーファンドが同じで実質的には同じ商品ともいえる低コストなインデックスファンドを3種類販売しています。先進国株式インデックスファンドを例に挙げると、以下のようになります(カッコ内は税抜信託報酬)。
「eMAXIS先進国株式インデックス」(0.6%)
「つみたて先進国株式」(0.2%)
「eMAXIS Slim先進国株式インデックス」(0.1095%)※2018年1月30日以降
3商品は、それぞれ主力販路が異なる。「eMAXIS」はネット専用商品ですが、いまやネット専業証券で買っている人はほとんどいないでしょうから、事実上の販路はメガバンクや地銀のネット販売とラップ口座だと想像できます。「つみたて先進国株式」は「つみたてんとう」シリーズという名称が示すように銀行や証券会社の店頭販売用「つみたてNISA」専用商品の側面が強い。そして「eMAXIS Slim」は“常に業界最低水準のコストにこだわる”というコンセプトが示すように、絶えずコスト最安値の商品に乗り換えていくようなコアなインデックス投資家をターゲットにした商品であり、販路も先進的なネット証券に限定されています。
つまり、三菱UFJ国際投信は投資家のレベルに合わせて事実上同じファンドを異なる報酬体系で販売しているのです。地銀で投資信託を買う、あるいはラップ口座を使うような層には「eMAXIS」、もう少し情報を取っていて「つみたてNISA」は使うけれども、ネット証券よりもメガバンクや大手証券の店頭販売を選んでしまう人には「つみたてんとう」、そして常に最新の情報を入手し、ネット証券でコスト最安値のファンドを買うコアな層には「eMAXIS Slim」を提供するということになります。
まさに投資家のリテラシーに合わせて、情報強者、情報中位者、情報弱者それぞれに別の報酬体系でファンドを販売しているということです。そしてはっきりしているのは、情報弱者が最も多くのコストを負担させられているという極めて冷酷な現実でしょう。
もちろん、同様のことは他の運用会社でも普通に行われています。ただ、三菱UFJ国際投信のやり方が最も鮮烈なのです。こっそりやるのではなく、堂々とやる。まさに「三菱」らしい姿勢に、ほとほと感心するわけです。そして、運用会社がこういった戦略を堂々と採用する以上は、投資家の方も自覚しなければならないことがある。それは、投資の世界では「情報弱者は、常に利益をむしり取られる存在だ」という厳しい現実です。だから、個人投資家もこれまで以上に情報収集に力を入れなければならない時代になりました。そうでなければ、それこそ情報強者の「養分」にされてしまうのです。