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2016年8月1日

GPIFの髙橋則広理事長のキャラクターに好感を持ちました



先日、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がYouTubeの公式チャンネルにアップしている運用状況記者会見の映像を見ていて感じたのですが、報告している髙橋則広理事長のキャラクターが非常に興味深かった。運用資産135兆円という世界最大級の機関投資家のトップとは思えない腰の低さと朴訥とした語り口に好感を持ったのです。それで同じくYouTubeにアップされていた就任記者会見の映像を見て、その思いはますます強くなりました。ぜんぜん根拠のない印象論ですが、この人は信用できると感じたわけです。そして話をよくよく聞いていると、やっぱり気弱そうな声と口調で、とても大胆なことを言っていたりします。この人を見くびったらダメだと思う。それどころか実力派理事長になる可能性があると感じました。

前任理事長の三谷隆博氏がいかにも日銀からの天下りといった風貌だったのに比べると、髙橋理事長は一瞬「ほんとにこの人、大丈夫か?」と思わせるほどひ弱な印象です。話し始めると、やっぱり自信なさげに朴訥としゃべる。それこそ田舎の村役場や農協にいるうだつの上がらない窓際職員といった感じです。

ところが経歴を見るとピカピカなのです。東大法学部卒で農林中央金庫に入り、専務理事まで勤めています。農林中央金庫は農協や漁協の金融事業の中央金融機関ですが、実態は投資銀行です。人に言わせれば日本最大のヘッジファンドだったりします。髙橋理事長の風貌と経歴のギャップが非常に面白い。

それで、いろいろと想像力をかきたてられる。この人は、普段はまるで昼行燈のようにうだつが上がらないけど、本当はものすごい実力があるという日本的中年ヒーロー像への妄想をかきたてられるのです。そんな髙橋理事長について、就任時に次のように報道されていました。

GPIF次期理事長、農中出身の高橋氏で決着 迷走1年(「日本経済新聞」)

やっぱり実力者だった。そう思ってGPIFの運用状況説明の映像を見てていたら、あの弱々しい口調でとても重要なことを話していました。それこそ世界中の企業経営者が聞いたら、ちょっと冷や汗が出るような内容でした。



映像で10:20あたりのやり取りに注目です。不正会計を行ったフォルクスワーゲンと東芝に対してGPIFが損害賠償訴訟を起こしていることに関して質問された髙橋理事長は、「被保険者の利益を第一に考えざるを得ない。不正が出た場合、訴訟という手段で被保険者の利益を回復したい」と断言しています。ものすごく申し訳なさそうな口調で話しているのですが、これは言い換えると、世界最大級の機関投資家トップとして世界中の企業経営者に対して「イカサマしたら、殺っちゃうよ❤」とドスを効かせてるわけです。

ここでも髙橋理事長の風貌・口調と話している内容のギャップが面白すぎる。まるでオヤジ狩りに遭ったひ弱そうなオッサンが、じつは平気で相手の眼球に指を突っ込むことのできる武術の達人だったというような「グラップラー刃牙」的展開を想像してしまいました。

しかし、よくよく考えるとGPIFの理事長というのは大変な職務です。懸命に運用しても、ちょっと一時的な損失が出ただけでマスコミには書きたてられ、年金運用とは何かということを知らない一部国民に罵詈雑言を投げつけられる。あげくの果てにはバカな政治家が政争の具に利用しようとする。そんな大変な立場なのに、年棒は3000万円程度。金融機関トップとしては驚くべき薄給です(だから三谷前理事長の後任がなかなか決まらなかった)。

その意味で、髙橋理事長は火中の栗をあえて拾ったともいえる。そういう視点から冒頭の就任会見記者会見を見ていると、にじみ出る誠実味に好感を持たざるを得ません。言っていることも一から十まで正論で、じつに立派な抱負を語っています。

もしかしたらGPIF、そして受益者である私たち国民は、年金運用にとって非常に厳しい環境下にある現在にあって、良い人材を得たのかもしれません。本当の実力者というのは世の中の目立たぬところにいるものです。

そんなわけで、なんともキャラクターが興味深い髙橋理事長の動きを今後もwatchしていこうと思いました。

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