2019年10月29日

企業型DCの罠―低コストなバランス型インデックスファンドのラインアップが必要不可欠では



先日、弟から企業年金について相談されました。弟は勤務先で企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入しているのですが、運営管理機関から「1年に1回は資産の状況を確認しましょう」というハガキをもらったそうで、その確認を手伝って欲しいとのことでした。そこで一緒にDC口座の状況を確認したのですが、いろいろと興味深い話を聞きました。やはり自主的にDC口座の資産配分を決定している加入者は少数派だということです。このため運営管理機関である金融機関のアドバイスに従う人が多いのですが、どうもそこに“企業型DCの罠”ともいうべき問題があるように感じました。

弟の勤務先は、加入してた厚生年金基金が解散したため2017年10月から企業年金が企業型DCに移行しています。その際に購入商品の配分指図書を出さなければいけないということでいろいろと相談に乗ったことがあるですが、その流れで今回もアドバイスを求めれました。弟が加入する企業型DCの運営管理機関は、みずほ銀行ですが、なかなか良心的な商品ラインアップであることは以前にこのブログで紹介した通りです。

企業型確定拠出年金も“やればできる子”―驚きの超低コストファンドが存在する
弟の企業型確定拠出年金の商品選択にアドバイス―「みずほ信託銀行インデックスファンドS」シリーズは驚きの低コスト

記事でも紹介したように、弟は超低コストインデックスファンド(正確には信託銀行が直接運用を担う金銭信託商品)「みずほ信託銀行インデックスファンドS」シリーズでポートフォリオを組んでいます。今回の確認作業では当初設定した資産配分から大きな乖離はなかったので、リバランスの必要もないということですぐに終わりました。それから少し企業型DCについて雑談していたのですが、そこで非常に興味深い話を聞きました。

まず、職場で弟のように自分で資産配分を決めて個別ファンドを購入している加入者は非常に少数派だということです。これはある意味でしかたない面があります。やはり日本人の大多数の例にもれず従業員のほとんどが「運用」に関する知識がなく、現在の企業型DCで義務付けれれている程度の「投資教育」だけで、自分で運用商品を決定しろというのが、どだい無理な話なのです。

そこで多くの加入者は運営管理機関である銀行などの担当者に「どの商品を選んだらよいのか」と聞くわけです。すると銀行の担当者は「掛金を一切減らしたくないなら定期預金を選んでください」と言った上で「運用したいけれども自分で管理ができないと思うなら、すべての運用を任せるバランス型ファンドを選ぶのもひとつの方法です」と答えているようです。この回答自体は正しい。ただ問題はここから。どうもそれとなく選択を誘導している商品があるからです。弟の勤務先の企業型DCプランの場合、それは次のファンドでした。

「DIAM投資のソムリエ(DC年金)」

国内株式、国内債券、先進国株式、先進国債券(為替ヘッジ付き)、新興国株式、新興国債券、J-REIT、先進国REITの各インデックスマザーファンドに投資するバランスファンドですが、資産配分は市場環境によって変化させるもので、いわゆるフレキシブル・アロケーション型ファンドと呼ばれる種類のファンドとなります。

ここになんとも釈然としないものを感じました。フレキシブル・アロケーション型ファンドの有効性については諸説あり、いちがいに否定はできないのですが、やはり課題となるのがコスト水準です。「DIAM投資のソムリエ(DC年金)」の場合、信託報酬は1.1%(税抜)。同じ企業DC加入者でも弟のように「みずほ信託銀行インデックスファンドS」シリーズでポートフォリオを組めば信託報酬0.1%強のコストで運用できるのに対して、いくらポートフォリオの管理をファンドに任せるからと言って、10倍近い信託報酬を取ることの合理性を説明できるのかという疑問です。

しかも企業DCの実態として、運用の知識のない加入者に対して運営管理機関がそれとなく高コストのバランスファンドを選択するように誘導しているという印象を強く受けました。ここにも釈然としないものを感じます。なぜなら、弟が加入している企業型DCの場合、運営管理機関(販売会社)はみずほ銀行。そして「DIAM投資のソムリエ(DC年金)」の委託会社(運用会社)はアセットマネジメントOne、受託会社(信託銀行)はみずほ信託銀行です。つまり信託報酬1.1%をみずほフィナンシャル・グループで総取りする形になります。下衆の勘繰りかもしれませんが、こういう状況に対して“企業型DCの罠”という印象を持ってしまうのは自然なことでしょう。

もちろん、企業型DCでバランス型ファンドを使うことがダメなのではありません。それどころか、すべての企業型DC加入者が自主的に資産配分を決定できるなどと言うのは非現実的です。だからこそ企業型DCでは良心的なコストのバランス型インデックスファンドをラインアップすることが必須であり、運営管理機関は、そういった良心的なバランス型インデックスファンドを提案するべきなのです。例えば弟が加入する企業型DCプランには「みずほ信託銀行マイブレンド」シリーズがラインアップされており、信託報酬は0.27%~0.3%です。これなら十分に合理的なコスト水準でしょう。企業型DC運営管理機関には「DIAM投資のソムリエ(DC年金)」ではなく、「みずほ信託銀行マイフレンド」を加入者に勧めるようなマインドが必要なのです。それが加入者に対するフィデューシャリー・デューティー(忠実義務)というものでしょう。

現在、日本では企業年金が従来の確定給付型(DB)から確定拠出型(DC)へと移行する流れが続いており、企業型DCの加入者も増加の一途です。そして、現在の日本人の一般的な金融リテラシーを考慮した場合、企業型DCにおけるバランス型ファンドの重要性は極めて大きい。実際に企業型DC専用ファンドの中でもバランス型ファンドへの資金流入は圧倒的だと報道されています。

DC専用ファンド(2019年9月)、2,200億円を超える記録的な資金流入額に膨らむ(モーニングスター)

こうしたことを考えると、企業型DCにおいて低コストなバランス型インデックスファンドをラインアップすることが必要不可欠だと言えるでしょう(あるいは、十分に低コストなら、DC専用としてターゲットイヤー型ファンドでも構わないと思う)。企業型DCの商品ラインアップに関しては以前から批判が多かったのですが、今年から商品ランアップをインターネットで公開することが義務付けられたこともあって、DC向けファンドの信託報酬引き下げが相次いでいます。ただ、個別の資産カテゴリーに投資するファンドの低コスト化だけでなく、バランス型ファンドの低コスト化というのは、それ以上に危急の課題だと思います。加入者が“企業型DCの罠”を感じてしまうような不信感を解消するためにも。

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