私は企業年金の無い中小零細企業のサラリーマンなので、自分で掛け金を拠出する個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入して老後資金の一部を作ろうとしているのですが、じつは世の中の人が加入している確定拠出年金の大部分は企業が掛け金を拠出する企業型確定拠出年金(企業型DC)です。この商品ラインアップに酷いものがあるというのは以前から話題になっていたのですが、実際の加入者以外は実態が分からず、いわば闇の中でした。ところか今回、相互リンクいただいているアルパカ2号さんが、驚くべき実態を暴露しました。
高コストな企業型確定拠出年金(DC)のラインナップを公開!損保ジャパン日本興亜DC証券の巻(アルパカの草食系投資)
これはひどい。こんな高コスト商品しかないラインアップでは、まともな運用などできません。なんでもお上に頼るのは良くないとは思うのですが、こうした実態がある以上は企業型DCの商品ラインアップにも何らかの規制が必要ではないかと改めて思ってしまいます。
損保ジャパン日本興亜DC証券の企業型DCの何がひどいかというと、驚くべき高コスト商品しかラインアップしていないことです。なにしろインデックスファンドは「インデックスファンドTOPIX(日本株式)」の1本だけであり、それですら信託報酬は税抜0.6696%という時代遅れの水準。さらにひどいのは先進国株式ファンドでしょう。アクティブファンドしかない上に、信託報酬は2%前後。先進国株式インデックスファンドの信託報酬が0.1%台にまで低下しているこの時代に、いくらアクティブファンドだといっても、信託報酬で2%も取られていてはまともな運用などできません。
なぜ企業型DCで高コストな商品しかラインアップされていないことが問題なのかというと、個人型DC(iDeCo)なら契約者が自分でラインアップを確認して、自分に有利なプランの金融機関を選べるのに対して、企業型DCは基本的に会社が用意したプランに従業員が強制加入となるからです。強制加入の制度で高コストな商品しか用意しないというのは、とんでもないことです。「掛金は企業が負担するのだから」という言い訳は通用しません。なぜなら、企業型DCの掛け金というのは企業にとって総人件費の一部として支出されているわけですから、もし企業型DCがなければ給与の一部として従業員に支払うべき性質のものだからです(なかには退職金の一部として制度が導入されているケースも少なくありません)。
企業型DCが高コストな商品しかラインアップしていない場合、従業員はどうするべきでしょうか。本筋は労働組合(労組の無い企業の場合は従業員代表)を通じて改善を申し込むことになります。企業型DCのプラン選択というのは労使合意事項だからです。しかし、中小企業の多くは労組がなく従業員代表も機能していない場合が多い。また、企業側も従業員側も年金運用に対する基本的知識が欠如しているケースが多く、そうなると改善の道がほとんどありません。それを金融機関にいいように利用されているわけです。
結局、民間側の自浄作用が期待できないとなると、やはり政府の出番となるのでしょう。ここは思い切って何らかの規制が必要ではないか。例えば「つみたてNISA」では対象商品に信託報酬の水準などで厳しい制限が課せられています。利用が任意の「つみたてNISA」ですら、これほど厳しい規制を課すのですから、強制加入となる企業型DCにはもっと厳しい規制を課しても良いと思う。少なくとも低コストな商品ラインアップを実現しているiDeCoプランと同等のレベルにならなければ意味がない。この辺りは所管官庁である厚生労働省の意識が問われています。
そして、行政が動くためには、やはり国民の声が必要です。なぜ今まで企業型DCの問題が看過されていたのか。それは実態がブラックボックスだったからにほかなりません。やはり「日の光を当てる」ことが、事態を改善するためには必要不可欠。その意味でアルパカ2号さんが次のように真摯に書いていることは重要です。
私はブラックボックスを開けました。せっかくですので、違うブラックボックスの中を見てみたいです。あなたもブラックボックスを開けてみませんか?こうやって小さくとも国民が声を上げることが行政を動かすのです。とくに近年は金融・年金関連の行政当局が個人ブロガーの発言をよく見ています。だから、ボッタクリの企業型DCプランが次々と白日の下にさらされ、それに対する国民の不満の声が大きくなれば、行政も動かざるを得なくなる。あるいは行政が動く前に規制を恐れる金融機関が先回りして改善に動くかもしれません。
アルパカ2号さんに賛同し、私も今後、高コストな企業型DCプランを徹底的に批判しようと思う。なぜなら、iDeCoの普及と低コスト化が進んだ現在、企業型DCの改善こそ日本で資産運用が一般化するために必要な危急の課題だと思うからです。
【関連記事】
企業型確定拠出年金も“やればできる子”―驚きの超低コストファンドが存在する
企業型確定拠出年金の商品ラインアップにも規制が必要だと思う