2019年11月1日

英国ISAに学ぶNISA恒久化への道―“富裕層優遇”批判を乗り越える制度設計を



NISA(少額投資非課税制度)に関して、政府は2020年度の税制改革では恒久化を見送る方針だそうです。金融庁などは長らく恒久化を要求し続けていますが、やはり税制優遇措置に対する財務省の反発は大きく、恒久化への道は険しいというのが印象です。こうした中、NISAのモデルとなった英国のISA(個人貯蓄口座制度)がどういった形で変化していったのかを参照するのは有効です。その上で、NISA恒久化の大きな障害となっている“富裕層優遇”という批判を乗り越える制度設計が求められていると思います。

英国ISAの最近の動向についてはフィデリティ退職・投資教育研究所が簡便なレポートを発表しています。

英国ISAの最近の動向(フィデリティ退職・投資教育研究所)

これを見ると、英国ISAも決して一気に制度が完成したのではなく、長い時間をかけて少しずつ改正を続けていることがよくわかります。こうした英国人の“大人の漸進主義”というのは見習うべきでしょう。つまり、どの国でも税制優遇措置というのは政治的ハードルが高く、それを実現するためには粘り強い交渉が必要なわけです。

現在、英国ISAは成人人口の約半分の人が使っているのですが、資金規模から見ると大きな特徴があります。英国ISAは預金型と株式型があり、当初から資金流入では預金型が株式型を圧倒しているのです。しかも英国ISAでは株式型でも株式や投資信託だけでなく国債での運用も認められています。英国ISAは無リスク資産に対して大きく門戸が開かれていました。これが株式や投資信託などリスク性の金融商品での運用に限定される日本のNISAとの大きな違いです。日本のNISAと比べて英国ISAは、無リスク資産を含めたより幅広い方法によって国民の資産形成を促進しようという狙いがあると言えるでしょう。

この英国ISAの特徴には、日本のNISA恒久化に向けたヒントも見えてきます。現在、日本のNISA恒久化のハードルとなっているのが“NISAは富裕層優遇政策だ”という批判です。実際にそういった声がどの程度あるのかは不明ですが、確かに一般NISAに関しては限度額が年120万円ですから、それだけの資金をリスク資産に投じることができるのは富裕層とまではいかないけれども、ある程度の経済的余裕のある人であることは事実です。

こうしたことを考えると、やはりNISA恒久化のためには“富裕層優遇”批判を乗り越えるだけの制度設計が必要なはずです。その意味で「つみたてNISA」に関しては非課税期間が20年と長い代わりに限度額が年40万円と小さくなっているので十分に“富裕層優遇”という批判に反論できる性格のものになっているでしょう。その上で、さらにNISAが富裕層優遇の制度ではないことを明確にするために英国ISAと同じく預金や国債での運用も認めてはどうでしょうか。

NISAのような優遇税制制度というのは本来、富裕層ではない人の資産形成を促進し、格差を是正するためにあるはずです。そのためには非富裕層でも参加しやすい制度であることが重要でしょう。その場合、やはりリスク資産への投資の経験のない人にとって現在のNISAはハードルが高い。そこで、まずは預金や国債での運用を通じて参加を促しては。「資産形成=リスク資産運用」ではないはずです。

そうやって英国ISAのように制度への参加者を増やしていけば、最初は無リスク資産で運用していた人も徐々にリスク資産での運用に挑戦し始めるに違いありません。それは「貯蓄から投資へ」という最終的な政策目標にもつながるでしょう。そして、英国ISAのように成人人口の半数が非課税口座を持つようになったとき、それは大きな政治的勢力となります。その時こそNISAは“富裕層優遇”という批判を乗り越え、恒久化への前提条件が整うはずです。

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