2019年6月14日

“老後資金2000万円”騒動は現代の黒船―これからどう行動するかで未来は残酷なほど異なってくる



金融庁が発表した「高齢社会における資産形成・管理」報告書から、なぜか「老後資金は約2000万円必要」といった内容が独り歩きしているわけですが、やはり当局から具体的な数字を示されると大きなインパクトがあるということでしょう。こうした捉え方は粗雑で真実を表していないという点で問題が多いのですが、結果的に社会に大きな影響を及ぼすことも事実です。実際にそうした動きが見えてきました。

「老後2000万円必要」 投資への関心高まる(NHK News WEB)

このニュースを見て、「あの報告書は結果として現代の黒船だったのだな」という印象を持ちました。だとするなら、現実という黒船を目にして、今後どのように行動するかによって私たちの未来は残酷なほど異なるものになっていくのでしょう。

1853年に米国海軍のペリー提督率いる黒船が浦賀に来航し、「泰平の眠りを覚ます上喜撰たつた四杯で夜も眠れず」と狂歌にも詠まれたわけですが、歴史に詳しい人ならご存知のように、べつにペリーの黒船によって日本人は初めて欧米諸国の存在を知ったわけではありません。そのかなり以前から外国船の来航は断続的に続いており、幕府や知識人の間では当時の国際情勢という“現実”は、かなり正確に把握されてていたのです。ただ、その現実が大々的に庶民にまで知れ渡ったという点で、やはりペリーの黒船来航は象徴的な意味を持ったのでした。

黒船という現実を目の当たりにした日本人は、様々なアクションを起こしました。あるものは「攘夷!」と言っていきり立ち、問題を解決できない当局に対する反発から「天誅!」と言いながら暴れるテロリストになったりもします。一方で現実を直視し、それに対応するための新しい技術と知識を獲得しようと地道に勉強を始めた人もいます。歴史を振り返ると前者と後者がその後に歩むことになる未来は、残酷なほど異なるものになっていきます。

今回の“老後資金2000万円”騒動も、これと似ていると感じました。公的年金だけでは満足な老後の生活水準を維持できない可能性があることなど、政府も早くからわかっていたし、民間の専門家の間でも何度も言及されてきた“現実”です。それが今回、“2000万円”という、まるで黒船のように分かりやすい姿として取り上げられたことで、結果的に日本人の多くが老後資金に関する“現実”を知ってしまったわけです。

だとするなら、老後資金という現実を目の当たりにして私たちはどうするべきか。ありうべき社会保障政策を求めて政治へ働きかけることは大切です。しかし、不合理な方法で吹き上がったり、暴発しているだけでは残酷な未来しかないでしょう。この現実に対応するための技術と知識を取得するために勉強するべきなのです。そして、正しい技術を知識に基づいて行動するしかありません。これからどう行動するかで、私たちの未来は残酷なほど異なってくるのです。

そう考えると、NHKニュースが伝えるように今回の騒動がきっかけとなって資産形成について勉強しようと考える人が増えるのは、やはり今回の金融庁の報告書の成果かもしれません。ただ、ここで注意して欲しいことがあります。お金について勉強するのは良いことだけれども、間違った勉強をしてはいけないということ。だから、いきなり投資に関するセミナーに参加したりするのはあまりお勧めできません。ましてや金融機関に相談するのはもってのほか。まずはお金に関する原理原則から勉強するべきです。迂遠に見えても、やはり基礎や原理原則から学ぶというのは勉強の基本です。

ではどうすればいいのは。まず心を落ち着けて、お金や資産形成に関する原理原則を解説してくれる良質な入門書をじくり読むことをお勧めします。そうやってしっかりと足場を固めてから、それこそiDeCoや「つみたてNISA」を使った積立投資など具体的な手法を研究するべきなのです。それは、金融庁の報告書が示した、自分の人生や老後について「自分ごと」として考えるための第一歩なのです。

【ご参考】
お金や資産形成の原理原則について書かれた本で個人的に印象深かったものは、このブログでも何度か紹介してきました。改めでそのいくつかを紹介し、書評記事をリンクしておきます。いずれも非常に感銘を受けた良書です。ぜひ目を通してみてください。

『働く君に伝えたい「お金」の教養』―達人が語る「お金」と「生き方」に関する不変の原理原則


『お金の常識を知らないまま社会人になってしまった人へ』―高校生や大学生にも読んでもらいたい先輩からのメッセージ


『ご円満に。お金に困らない・お金でモメない生活設計術』―信頼できる大阪のオバチャン的リアリズム


『公的・企業年金運用会社の元社長が教える波乱相場を〈黄金のシナリオ〉に変える資産運用法 かんたんすぎてすみません。』―これから投資を始めようとする人は必読

関連コンテンツ