サイト内検索
2017年12月19日

『ご円満に。お金に困らない・お金でモメない生活設計術』―信頼できる大阪のオバチャン的リアリズム



労働組合でお世話になった独立系FPの松本真由美さんが著書『ご円満に。お金に困らない・お金でモメない生活設計術』を刊行しています。これがなかなか素晴らしい本でした。実際にFPとして数多くの家計相談をこなしてきた著者ならではの“現場の匂い”が濃厚な1冊なのです。家計管理のイロハから、住宅ローン、生命保険、老後資金、そして貯蓄と投資までトータルで学べる内容になっています。しかも、内容がとことん実戦的。ここに評論家とはまったく異なる、現場のFPならでは視点があります。

本書の優れた点に、そもそも家計やライフスタイルは人によって異なるという当たり前の前提をしっかりと踏まえていることでしょう。だから、十把一絡げに「老後資金には〇〇〇〇万円必要!」といった馬鹿げたことは一切書いていない。その代わりに、まずは家計管理を通じて月々の必要な生活費を算出することを掲げています。この金額がいくらなのかこそ、それぞれの家庭によって異なる。なぜなら、それはその家庭がどんな生活を送りたいのかという自己決定だからです。

そういう自己決定をまずさせた上で、それを可能にするライフプランを考えるというスタンツが徹底されている。そして、ライフプランを成り立たせるために、どうするべきか考える。そこで初めて収入を増やす、支出を減らす、貯蓄・投資するといった方法論が登場するのですが、その捉え方が極めて穏健派だというのが本書の特徴と言えるでしょう。

例えば生命保険の見直しを提唱するけれども、決して生命保険を全否定しません。それどころか貯蓄、保険、投資をそれぞれの家庭の事情に合わせながらバランスよく組み合わせることで資産形成を実行することを提唱しています。あるいは住宅ローンの項目では、いわゆる“持ち家・賃貸論争”を踏まえながらも、結論としては「持ち家か賃貸かは、あなたの価値観の問題です」と言いきるところが清々しい。

そういう各家庭の自己決定を大切にしながら、それでいて実戦的な視点が本書のいたるところにあります。例えば家計の支出削減のために様々な固定費を減らすことが紹介されていますが、減らしてはいけない項目として「夫の小遣い」と「妻の美容・化粧品代」が挙げられているところで私は舌を巻きました。そんなことをしては、家計にとって稼ぎ頭である夫のモチベーションが下がり、妻が綺麗でなくなることによって家庭の「円満」をダメにしてしまう。それは本末転倒だという極めて本質的な指摘が含まれているのです。

そして老後資金についても、やはり月々の生活費をどのように想定するかという観点からスタートしている。それはやはり、どんな生活レベルの老後をおくりたいのかという自己決定です。その上で、それを可能にする資産形成の方法論を考える。余裕のある老後にしたければ、収入を増やすことに力を入れながら、かなり早い段階から投資を含めた資産形成に励む必要があるとして、公的年金、貯蓄、貯蓄性保険、確定拠出年金、NISA、あるいは積み立て投資についても一通りの解説をしてくれています。さらに最終章では「おひとりさまヘ告ぐ」として、シングルのライフプランについても実戦的なアドバイスがなされていることは貴重です。

実戦的、そして基本的に穏健なことしか書かないという姿勢こそ、本書を信頼性のあるものにしていると思う。FPも競争があるので、えてして過激な意見で注目を集めようとする傾向があります。ところが、あまりにエッジを立て過ぎると、つんのめってひっくり返る。だから、松本さんのように地味でも穏健な結論しか出さないというのは、すごく勇気のあることだし、ある意味で最も相談者目線に立った姿勢です。

そもそも各家庭の置かれた立場はそれぞれですから、誰にでも当てはまる最適解などありません。だから松本さんは相談者に対していろいろと考える材料を提示しながら、最後は「どんな生活を送りたいのかを決めるんは自分やで」「最後は自分で決めやなアカンねん」となる。こういう、お節介と自己決定主義が奇妙に結合した、いかにも“大阪のオバチャン的リアリズム”こそ、お金の問題では最も大切だと思う。

松本さんはFPになる前は、かなり波乱万丈の人生を歩んできたそうです(それは本書の第1章で紹介されています)。そんな松本さんは、独立系FPとしてのフィデューシャリー宣言ともいえる「お客様への宣誓」を発表しています。本書を読むと、宣誓が決してお題目だけでないことがよく分かる。なぜなら、本書で指摘されていることは、すべて体で覚えた“鍛え”の入った一手と感じられるから。それもまた好もしい読後感をもたらしてくれるでしょう。家計について考え直したいけど、どこから考えたらいいのか分からないといった人は、ぜひ一読をお勧めしたい良書です。

※本書はオンデマンド出版のため、一般書店の店頭では販売されていません。Amazonから注文することができます。


関連コンテンツ