日本では「お金」に対して本質的な問いを忌避する傾向が強く、大人になってからも「お金は汚いものだ」と公言する人が少なくありません。その結果、お金に関する教育が貧困なまま放置され、マネーリテラシーを欠いた状態で社会人となってしまうケースが多い。そんな若い人に向けた人生の先輩からのメッセージともいえる1冊が大江英樹さんの新著『お金の常識を知らないまま社会人になってしまった人へ』です。若い社会人だけでなけでなく、高校生や大学生にも読んでもらいたい温かさあふれる本です。
今回、この本を読んだのにはちょっとしたいきさつがありました。本業の関係でお世話になっている大阪の独立系FP・松本真由美さん(円満プランニング)から書籍付きイベントに誘われたからです。
労働組合でお世話になった独立系FPの松本真由美さんが大江英樹さんを招いて大阪でイベントをやります。有料イベント(ただし書籍付きなので安いdす)ですが、関心のある方はご参考までに。— 菟道りんたろう (@udohrintaro) 2018年1月20日
お金の常識を知らないまま社会人になってしまった人へ https://t.co/ZBZzTaYSCh @kokuchproさんから
著者の大江英樹さんとはこれまでも何度かイベントなどでお会いしたことがあるのですが、たっぷりと話を聞くチャンスと思い参加しました。ですから今回の記事は本の内容と同時に講演についての感想も含みます。
まず最初に、本書は投資や節約のハウツー本ではありません。もっと本質的な観点から「お金」についての原理原則を分かりやすく解説しながら、お金の「貯め方」「殖やし方」そして「使い方」について“自分の頭で考えることができるようになる”ことを目的としています。そのために掲げられているのが以下の20個の「お金の原理原則」。
1、お金の本質は「信用」
2、かわいい子には旅をさせよ
3、お金に働かせる前に自分が働くべし
4、お金以上に大切な「時間」というもの
5、たった1つだけ!お金の貯め方のルール
6、できるだけ「早く」「たくさん」儲けたい、という間違い
7、はじめての投資の考え方、始め方
8、お金が増えない!3つの落とし穴
9、みんな間違えている、保険の本当の意味
10、保険に入るべき3つの条件とは
11、この世で一番大切な保険―社会保険
12、年金は「貯蓄」ではなくて「保険」
13、知っておくべき「もうひとつの年金」の正体
14、最強の「じぶん年金」の作り方
15、収入より小牛が大切
16、利息はもらうもの、払ってはいけない!
17、クレジットカードとの賢い付き合い方
18、大きなお金を使う―自動車や家は買うべきか?
19、「自分への投資」は役に立たない
20、人のためにこそお金を使おう
いずれも穏健でいて、本質的な指摘が繰り返されているので読んでいて清々しい。とくに印象に残ったのは「お金の本質は『信用』」ということです。これは貨幣が「信用」によって成り立っているという意味だけでなく、お金は「信用」の交換・対価であるということです。これはハッとさせられる指摘です。確かに消費にしろ投資にしろ、私たちがお金を投じるのは、その対象を「信用」しているからにほかなりません。
この本質を理解すると、20の原理原則の最後に登場する「『自分への投資』は役に立たない」「人のためにこそお金を使おう」という言葉の重みが分かってくる。結局、お金を貯めるにしろ増やすにしろ、それらはいずれも自分の「信用」を積み重ねていくことに他ならないのです。そして何より他人のためにお金を使うことは、新たな信用を生み出す。その対価としていずれお金という形で戻ってくるということでしょう。お金は常に信用のあるところにしか集まらないです。
こう考えると、本書を通じて大江さんが訴えたかったもうひとつのメッセージが見えてくるような気がしました。本書のあとがきで「人生の目的はお金持ちになることではなく、幸せになること」と看破していますが、そのためにも大切にしなければならないものが「信用」だということです。だから、正しい「お金の常識」を持つということは、突き詰めると、人を信用し、人に信用してもらえる人生を歩むための原理原則だということです。そして、それさえできていれば、世の中はそんなにしんどいことばかりではないというメッセージすら感じます。
本書は「働くこと」「貯金」「投資」「保険」「年金」「クレジットカード」「ローン」など具体的な事象から、お金についての原理原則と“考え方”を伝授してくれる1冊ですが、それ以上に酸いも甘いも知り尽くした大人が、若い人に向けて「より良き人生を歩むための大人の知恵」を教えるメッセージのように感じます。そこにはある種の温かみが感じられるところが実に好もしい。若い社会人だけでなく高校生や大学生にも読んでもらいたい1冊でした(もちろん、私のような中年が読んでも学ぶところが大いにありました)。