2020年11月24日

動き出した20代、30代―“投資”の概念が大きく変わろうとしている

 

フィデリティ・インスティテュート退職・投資教育研究所が行っている恒例のビジネスパーソン1万人アンケートによると、回答者のうち40%の人が「投資をしている」と回答したそうです。とくに20代、30代が大幅の上昇しているそうです。


金融機関系列の研究所が実施したアンケートなので回答者層にはそれなりのバイアスがかかっていることを差し引く必要がありますが、それでもやはり注目すべき数字です。これを見て感じたのは、若い世代を中心に“投資”の概念が大きく変わっているのではないということです。

フィデリティによるアンケート調査は今回が8回目ですが、「投資をしている」と答えた人の割合は過去最高となる40.5%となりました。面白いのが、従来とは上昇傾向に違いがあるということです。従来は相場が好調になると投資する人が増え、逆に市場環境が悪化すると投資する人も減っていました。ところが2015年以降、相場動向と関係なく投資をする人の割合が増加するトレンドが顕著になっています。

こうした動きに対してフィデリティは「相場変動に関係なく、積立投資を続ける若年層が多くなっているからではないでしょうか」と指摘します。実際に年代別、性別のセグメントに分けて投資家比率を2015年と2020年で比較すると、明らかに男女とも20代、30代が大きく資産形成に動き出していることが読み取れます。

こうした動きの背景には何があるのでしょうか。アンケート結果をさらに詳しく見ると、いろいろと考えさせられるポイントががあります。それは、投資の目的として「老後の資産形成」への意識が高まる一方で、現在の新型コロナウイルス禍によって保有資産や退職準備額がともに減少しているという事実です。さらに全体の約半分を占める年収700万円未満の層では、約4割の人が収入減少に直面し、とくに若年層、低所得層ほど厳しい状況に置かれているという現実も明らかになりました。

ところが皮肉なことに、資産や収入が減少した人が多いにも関わらず、「収入減で資産運用の重要性に気が付いた」と回答している人が増えています。とくに低資産層ほど投資の重要性に気付き、行動した人が多いという結果になっています。

しかし、考えてみれば、こうした結果が出るのは当然かもしれません。今回の新型コロナ禍によって多くの人が多かれ少なかれ経済的な打撃を受けました。ところが、ふと周りを見渡すと、早くから投資をしていた人は、収入の減少にも関わらずいち早く資産を回復させています。今後の新型コロナ禍の収束が見通せない以上、収入の低迷は長期化する可能性もある。しかし、投資をしている人は収入の減少にもかかわらず資産の減少を抑えることができる可能性があることが可視化されてしまった。そして、投資をしている人としていない人の格差もどんどん広がるかもしれない。それこそが「収入減で資産運用の重要性に気が付いた」ということの意味でしょう。

ここで若い世代を中心に“投資”の概念が大きく変わろうとしているのかもしれません。収入減に見舞われている20代、30代にとって投資は「ちょっと儲けたい」といった軽薄なものではなくなっている。まさに将来に向けた“生活防衛”としての投資が見出されつつあるように感じます。だからこそ、真摯な気持ちで投資に取り組む人も増えていくのでしょう。相場の状況に関わらず、コツコツと積立投資を続ける人が増えているというのは、その真摯さの表れです。生活防衛としての投資する以上、腰の据わり方が違ってくるのは当然なのです。

新型コロナ禍は社会のあり方を大きく変える出来事ですが、その変化の多くは既に起こっていたものであり、新型コロナ禍は変化を加速させたというケースが少なくありません。恐らくこれまで萌芽だった日本人の投資に対する考え方、概念の変化もこれから加速するのでしょう。その明瞭な動きがアンケート結果にも表れていると感じました。それが良いことなのか悪いことなのかは別にして。

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