金融庁は毎事務年度ごとに「金融行政方針」と、その進捗状況や実績、分析や問題提起を記載した「金融レポート」を公表していましたが、平成30(2018)事務年度年から両者を統合し、このほど「変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針(平成30事務年度)~」として発表しました。
変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針(平成30事務年度)~(金融庁)
変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針(平成30事務年度)~主なポイント(同)
さっそく読んでみたのですが、なかなか興味深い点があります。とくに「家計の安定的な資産形成の推進」が全面的に盛り込まれている中で、依然として金融機関の姿勢に対して厳しい視線を向けていることがうかがえるからです。
金融庁はこれまで、家計の安定的な資産形成を図るために金融機関に対して「顧客本位の業務運営」を浸透・定着させることに努めてきました。その結果、金融機関の業績評価体系や商品ラインアップなどの見直しが進むなど一定の成果を認めているようです。確かにここ数年で投資信託などのコストは大きく低下しています。その一方で、気になる指摘もあります。とくに販売会社の営業姿勢に関してレポートには次のように記載しています。
主要行等の営業店(全店合計)について、月次のリスク性商品(投資信託と一時払保険)の販売状況を検証した結果、四半期末ごとに販売額が増加しており、特に、運用環境に左右されにくい一時払保険の販売において顕著な増加が見られた。金融機関の営業現場で、期末の営業実績を確保するために“押し込み営業”による投資信託などの回転売買が行われている可能性を危惧しているわけです。押し込み営業というのはB2Bビジネスの場にも存在しますが、それでも優越的地位の濫用の疑いがあるとして批判の対象になったりします。ましてや金融機関が個人投資家に押し込み営業しているとなると、それこそ情報の非対称性を利用したセコイ行為であり、とても「顧客本位の業務運営」だとは思えません。
投資信託の平均保有期間や保有顧客数が伸び悩んでいる26ことも踏まえると、営業現場では、収益目標を意識して、期末に向けてプッシュ型営業により、特定の顧客に対し乗換取引を繰り返している可能性が窺われる。
このあたりを金融庁は重く見ているのでしょう。本事務年度の方針の中で次のように書いています。
金融庁としては、今後、販売会社において、経営者が「顧客本位の業務運営に関する原則」を自らの理念としてどのように取り入れ、その実現に向けた戦略を立て、具体的な取組みに結び付けているか、また、こうした理念・戦略・取組みが営業現場においてどのように浸透し、実践されているか等について、経営者等と対話を行う。これはけっこう厳しい書き方です。“ポーズだけでは許さん。ビシバシと指導する”という風に読めるからです。この点で金融庁の「顧客本位の業務運営」あるいはフィデューシャリーデューティーへの姿勢にはブレがありません。それはおそらく、個人投資家にとっても望ましい方向でしょう。
ほかにも興味深い記述がたくさんあります。例えばNISAについては「つみたてNISA」を含めて口座数・残高ともに順調に増加しており、とくに「つみたてNISA」は低コストなインデックスファンドに対象商品を限定したことや、若い世代を中心に拡大していることなどを評価しています。「投資初心者を含む一般の投資家にとって有益な意見や情報を発信している個人ブロガー等との意見交換の場(つみたて NISA Meetup)を、全国で行っている」という記述もありました(金融庁の公式文書が個人ブロガーについて言及していることに改めて驚きます)。
その一方で、昨年 12 月のアンケート調査を基に次のようにも指摘しています。
これまで投資信託を保有したことの無い人が全体の約8割(76.4%)となっている。また、つみたて NISAの認知度は全体の約4割(36.9%)、利用に前向きな人も1割未満(8.7%)に留まっている。認知度や普及の面ではまだ不十分であり「マクロ的に家計の金融行動を大きく変えるまでには至っていない」と冷静に分析しているわけです。このため今事務年度でも引き続き「つみたてNISA」の普及に向けたプロモーションに取り組むことになります。
金融教育について言及していることも注目でしょう。高校の教科書で、これまで以上に金融教育に関する内容を導入できるような検討を進めていくと明記されています。これはぜひ力を入れてやって欲しい。結局、冒頭で紹介したような投資信託の押し込み営業が成立してしまうのも、個人投資家の側の金融リテラシーに問題がないとも言い切れないわけですから。やはり大本を改革しなければ、問題の根本解決はあり得ないのです。
現在の金融庁の政策については、いろいろと意見があるでしょう。ただ、とくに「家計の安定的な資産形成の推進」に関しては大きな方向性として間違っていないと思う。ですから、引き続き頑張って欲しいと思うのです。
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