2024年3月10日

株価上昇は日本人全員に恩恵がある

 

日経平均株価が過去最高値を更新し、3月4日にはついに4万円台に乗せました。その後は利益確定売りなどもあって4万円台を割り込んでいますが、いまの市場の状況を考えると、今後も4万円台で推移してもおかしくない状況です。このまま無事に“失われた30年”が終わることを期待したところです。ところでなぜか日本では株価が上昇すると、やたらとそれをクサす言説がメディアに登場します。「儲かっているのは株式に投資をしている人だけ」「普通の庶民には、なんの恩恵もない」といったものです。しかし、こうした見方は非常に浅い見方です。ちょっと経済の仕組みについて想像力を働かせば、株価上昇は日本人全員に恩恵があるということが分かるはずです。

そもそも日本は資本主義経済体制を採っていますから、好むと好まざるとにかかわらず経済活動のすべてが株式市場とリンクしています。一番わかりやすい例は公的年金の存在でしょう。年金積立金管理運用独立法人(GPIF)は、国民の年金積立金の50%を株式で運用しています(日本株25%、外国株25%)。日本は国民皆年金制度が確立しているので、株価が上昇したことによって積立金の運用が好調となり、日本人全員が恩恵を被ったことになります。それは具体的には将来の年金支給額の大幅削減や社会保険料の大幅引き上げの可能性を小さくすることを意味します。

公的年金だけではありません。企業年金も同じでしょう。確定拠出型(DC)年金だけでなく、確定給付型(DB)年金もやっぱり一部株式運用によって年金原資を確保しています。生命保険もそうです。生保も集めた保険料の一部を株式で運用しており、それによって保障を維持しているからです(そもそも、なぜ生保系の運用会社が存在し、大規模なマザーファンドを持っているのかというと、もともとは自社が集めた保険料を運用するためでした。それが現在は一般の個人投資家からの資金も受け入れるようになっているのです)。そのほか、様々な法人(社会福祉、学校、宗教etc)も基金を持っていて、やはり一部株式を含む運用益によって法人の資金の一部を確保しているのです。

日本人は基本的に成人全員が公的年金に加入しています。企業に勤めていれば、DCやDBを通じて企業年金や退職金を受け取ることになります。家庭を持っている人なら生命保険の一つや二つは加入しているでしょう。学生やその親にとって通っている学校の財政状況は無視できない問題のはず。そのほか、様々な社会福祉活動や宗教も生活と無縁ではありません。そして、これらはすべて株価とつながっている。だから株価が上昇すれば、ほぼ間違いなく日本人全員に恩恵があるわけです。

逆に株価が暴落し、その後も低迷したらどうなるかを日本人は“失われた30年”で実際に経験したはず。バブル崩壊後、「株なんかやってるから損するんだ。ざまぁー」と笑っていた人は、その後になにを経験したのか。安全だと思って加入していた生命保険会社が相次いで破綻しました。企業年金もDBだから安心していたのに、逆ザヤに耐えられない企業の業績が悪化し、最後にはJALのように破綻して企業年金も大幅な引き下げになるケースが出ました。運用によって資金を得られなくなった学校は、ただひたすらに授業料を引き上げるしかなりました。様々な社会福祉活動も運営資金に困るようになりました。地域に根差していた寺社仏閣も資金難から荒廃が進みました。

なによりか株価低迷は企業活動の沈滞を意味したわけですから、まったく給料が上がらない時代になりました。そして若者は就職氷河期です。大量の氷河期世代を生みだし、そのダメージは個人と社会の両方で現在も続いています。つまり、株価が低迷して良かったことなどひとつもないのです。それどころか、株価が暴落し、低迷した時に「ざまぁー」と笑っていた人ほど、実際の社会生活ではダメージが大きかったのでは。なぜなら、株式投資をしている人というのは、まだ経済的に余裕のある人が多かった。だから株で損をしても、生活まで破綻するケースは少なかった。しかし、株式投資していない人は経済的に余裕のない人も少なくありません。そんな人の生活は“失われた30年”の間に、ますます苦しくなったのです。

こうしたことを考えると、株価が上昇しているときに「儲かっているのは株式に投資をしている人だけ」「普通の庶民には、なんの恩恵もない」などとクサすのはとんでもないことです。普通の庶民にとっても株価が上昇するというのは、何らかの形で恩恵があるのです。そしてなにより、株価が低迷して経済が停滞すれば、そのダメージは貧しい人ほど大きくなるのだということを忘れてはけないのです。

ただ、幸いなことに日本の株式市場の環境は30年前と大きく変わりました。昔は株式投資するためには、やはりまとまった資金が必要だったので投資したくてもできない庶民が多かった。でも現在は100円から投資信託が買えるようになり、個別株も日本株なら100株から、米国株なら1株から買えるようになっているのです。昔よりも簡単に多くの人が株式を保有し、株価上昇の恩恵を目に見える形で享受できるようになっています。

だから、株価が上昇した際にそれをクサす言説を取り上げるメディアの認識がいちばん遅れているともいえる。実際、株価上昇をクサすメディアの報道に対して冷たい視線を送る“庶民”が増えているように感じます。そういう時代の変化こそが、日経平均最高値更新と4万円台をもたらしのでしょう。その意味でも“失われた30年”が本当に終わるのではないかという期待を持っています。

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