2021年12月4日

マルキール教授の慧眼―インフレ時代のポートフォリオは株式中心に

 

「日経新聞」電子版に『ウォール街のランダムウォーカー』の著者、プリンストン大学のバートン・マルキール名誉教授のインタビューが掲載されていました。


これが非常に興味深い内容です。あいかわらずマルキール教授の慧眼が冴えており、インフレ時代のポートフォリオはどうあるべきかをズバリ指摘しています。

新型コロナウイルス禍から経済の回復が進む中、世界的にインフレ懸念が高まっています。一般的にはサプライチェーンの混乱が原因であり、一過性のものだという見方もあるのですが、マルキール教授は長期的なボトルネックとして「労働者不足という問題」を挙げています。先進国を中心に高齢化が進み、中国も一人っ子政策の後遺症で少子化が深刻。そこに新型コロナ禍が起こったことで、多くの労働者が労働市場から締め出されました。新型コロナ収束後も、この労働力が労働市場には完全に戻ってこないと見ているわけです。

ハイパーインフレのような極端なことは起こらないにしろ、労働者不足というファンダメンタルは、なかなか無視できないものがあります。このためマルキール教授は「私が懸念しているのは6%のインフレが10%に上がることではなく、6%が長期的に続いてしまうことだ」と指摘しています。労働者不足という問題を重視するところに、やはりマルキール教授の慧眼が光ります。

では、インフレ時代のポートフォリオはどうあるべきか。通常、インフレへの耐性が強い資産カテゴリーは株式と不動産だとされます。マルキール教授もセオリー通り、ずばり次のように看破しました。
長期債の購入を避けたほうがよい。株式と不動産などの実物資産を購入すべきだ。仮に私の予想が間違っていたとしても、利回りが1%程度の10年債は確実に損だ。歴史的な高値であっても株を買った方がよい。インフレ時代にはポートフォリオを株式中心とする必要がある。
また、米国株はミーム銘柄を中心に局所的なバブルが発生しているとして「バブルが破裂するのに備え、(幅広い銘柄に分散投資する)インデックス投資をすべきだ」と、やはりいつものマルキール節でした。

もう一つ注目したのは、マルキール教授の仮想通貨に対する見方です。教授は「仮想通貨の基盤技術であるブロックチェーンの稼働にはたくさんのエネルギーを消費し、実は高額なものだ」と指摘しています。これには、まさに我が意を得たり。私も以前から仮想通貨の最大も障害は電力や通信帯域など物理的インフラの限界問題だと考えていたので、それを見抜いているマルキール教授の慧眼はさすがというほかありません。
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その他にもインデックス運用の増加による市場の価格発見機能低下への懸念や、インデックス運用に対する「タダ乗り」批判に対しても見解を示しており、これもなかなか興味深いものがあります。いろいろと“御馳走”の多いインタビュー記事ですから、ぜひ目を通しておいた方が良いでしょう。

ちなみに教授は現在、『ウォール街のランダムウォーカー』第13版を用意しているとか。今回は「バブルに関する記述でミーム株現象、ビットコインや非代替性トークン(NFT)について加筆する予定」とのことです。

『ウォール街のランダムウォーカー』はインデックス投資に関する優れた啓蒙書であると同時に、いわば「投資ブームとバブル発生および崩壊の史的研究」という側面があります。この本の学術的価値は案外と後者の部分にこそあると私は考えていますが、マルキール教授もそれを自覚しているかもしれません。だからこそ後者の部分をアップデートし続け、史的研究としての精度を高めているような気がします。その点でも、次の増補改訂がどうなるのか非常に気になるのでした。

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