2017年に大きな盛り上がりを見せた仮想通貨ですが、最近はだんだんと話題になることも少なくなり、すっかりトーンダウンしてしまいました。急激な値下がりで大損した投資家も多そう。ただ、「長期的には仮想通貨はもっと普及するはず。それまではガチホールドや」と鼻息の荒いホルダーさんも少なくありません。そういった仮想通貨に投資している人にとって注目すべきレポートが国際決済銀行(BIS)から出ています。
Cryptocurrencies: looking beyond the hype (BIS;Annual Economic Report 2018)
これは仮想通貨に投資している人は必ず読んでおくべきレポートです。なぜなら、仮想通貨やその技術的背景であるブロックチェーンに関して、普及の障害となる物理的インフラ問題に言及しているからです。
各国中央銀行の相互決済機関であるBISが年次報告書の中で24ページを割いて仮想通貨の問題点について分析しているだけあって詳細を極めています。その中身は、ずばり仮想通貨が法定通貨のように決済手段として普及することができない脆弱性を持っていると指摘しているのですから、仮想通貨に投資している人からすれば衝撃的でしょう。
特に個人的に注目したのは、仮想通貨普及の障害として物理的インフラの問題に言及していることです。仮想通貨のトランザクション処理には膨大な通信帯域と電力が必要となるのですが、現在のブロックチェーン技術による処理方法では、仮想通貨が法定通貨のような規模で普及した場合、通信帯域がパンクし、さらに電力消費も膨大となり、とても処理しきれないという指摘です。
これは以前から指摘されてきたことですが、やはりBISのような組織が正式に分析・指摘したことに意味があります。ブロックチェーン技術も仮想通貨も、本格的な普及のためにはもう一段の技術的ブレークスルーが必要なのでしょう。通信帯域も電力も純粋に技術的・物理的な課題ですから、理念や信奉だけでは解決できません。
そもそも通貨の“価値”とは何なのでしょうか。例えば岩井克人は『貨幣論』の中で貨幣は貨幣として流通しているから貨幣なのだという循環論法で貨幣の神秘を説明しましたが、これを延長すれば、やはり通貨は通貨として普及(流通)しているからこそ、そこに“価値”が生じると言えます。
だとすると、現在の仮想通貨がBISの指摘通り技術的・物理的制約から将来的にも普及しないとすれば、現実に高値で売買されている現在の仮想通貨の価値とは何なんでしょうか。現在売買されている仮想通貨には、それ自体にはほとんど通貨としての決済機能がありません。すなわち“価値”がない。にもかかわらず、それが一定の価格で売買されている背景には「この仮想通貨は将来的に普及するはず。普及する前段階なので大幅な割引価格になっているはずだ」という“期待”があるはずです。しかし、その期待が裏切られた時、単なる電子信号の集積である仮想通貨の価格はどうなるでしょうか。
そういったことも含めて、今回のBISのレポートはいろいろなことを考えさせられます。何年か後に、2017年に起こったあの熱狂が何だったのかを振り返る上でもきっと参照される文献になるのではないでしょうか。そういえば現在の仮想通貨に対する一部の熱狂に対して、ノーベル経済学賞受賞者である米エール大学のロバート・シラー教授が面白いことを言っていました。
シラー教授は「これは社会的な動きだ。流行性の熱狂だ」とした上で、「投機的なバブルだが、ゼロに向かうことを意味しない」と述べた。17世紀にオランダで起きたチューリップ・バブルとの比較について問われると、「チューリップにはなお価値がある。高価なチューリップもある」と語った。(「ビットコインは「流行性の熱狂」-ノーベル経済学賞のシラー教授」ブルームバーグ)「チューリップにはなお価値がある。高価なチューリップもある」というのは、いかにもシラー教授らしいユーモアでしょう。