2020年6月21日

ファンドマネージャーや運用会社トップは自社のファンドに私財を投入すべき



モーニングスターに面白い記事が載っていました。投資信託の運用会社や販売会社の“中の人”が資産状況を公開する動きが出ているそうです。

「中の人」が公開、わたしの資産-新入社員コロナに負けず積立、CEOも実績開示(モーニングスター)

これは非常に良い流れです。とくに注目したいのは運用会社のCIO(最高運用責任者)やCEO(最高経営責任者)が自身で保有するファンドの資産状況を公開し始めたことです。なぜなら、この点こそ日本の運用業界が非常に遅れていた点だからです。

日本の投資業界は圧倒的に販売会社主導で成長してきましたから、現在でも金融商品の販売は証券会社や銀行の社員・行員の熱心な勧誘によって成り立っている側面が多々あります。ところが不思議なことに、金融商品の購入を勧める金融機関の従業員の多くは、自分自身は投資の経験がないという場合が少なくありません。なぜかというとほとんどの金融機関はインサイダー取引など法令違反防止の観点から従業員自身の金融商品売買に何らかの規制を設けている場合がほとんどだからです。

だから極端なら場合、自分では投資の経験が一切ない金融機関の営業マン・営業ウーマンが個人投資家に金融商品の購入を熱心に勧めるという皮肉な現象が起こるわけです。そして、金融機関からすれば購入・保有の際の手数料収入を確保できればいいわけですから、顧客の資産がその後にどうなろとも「自己責任です」の一言でかたずけることができる。そんな状況では、本当に顧客にとってその金融商品がふさわしいかなどの吟味は二の次となり、とにかく手数料の高い商品や流行りのテーマで売りやすい商品ばかりを提案するということになります。

しかし、記事で紹介されているように金融機関の“中の人”が自社の商品を購入している場合はどうなるでしょうか。顧客からすれば安心感が格段に高まります。投資の世界では金融機関と投資家の間に利益相反の関係が生じやすいのですが、こうした自社商品の購入は金融機関のスタッフとファンドの受益者が文字通り“同じ船に乗る”ことになりますから、まさに利益相反の関係を緩和する効果があります(ちなみに金融機関の人間が投資する場合、投資信託とくにインデックスファンドは規制をクリアしやすい商品です)。

こうしたことは、とくに運用会社のトップやファンドのファンドマネジャーに当てはまります。その意味で記事で紹介されている農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)の奥野一成CIOやWealthNaviの柴山和久CEOの行動は評価できます。やはりファンドマネージャーや運用会社トップは、自社のファンドに私財を投入することで受益者と“同じ船に乗る”べき。それでこそこ受益者のために最善を尽くすという忠実義務にも説得力が出るし、無謀な運用に走るかもしれないという不安も解消されます。

こうした動きは、じつは米国では既に当たり前になっています。とくにアクティブファンドの場合、目論見書にファンドマネージャーがそのファンドにどれだけの自己資金を投入しているかを具体的に明記することが当たり前になっています。自分の資産を投じることもできないようなファンドを他人に勧めたり売ったりするなということであり、じつに分かりやすい。こうしたことは日本でもぜひ導入して欲しいところです。それこそ金融庁が義務化してもいいくらいでしょう。そうなれば、「金融機関は所詮、他人の金を動かしているだけ」「他人の褌で相撲を取りながら、負けたら知らんぷり」といった悪口も減るでしょう。本当の意味で金融機関と投資家がともに成長する環境を整備するためには、ファンドマネージャーや運用会社トップは自社のファンドに私財を投入し、それを公開するべきなのです。

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NVICの奥野CIOとは以前にちょっとしたミーティングでお会いしたことがあります(農林中金バリューインベストメンツのブロガーミーティングに参加―会場の京都ラボが素晴らしい施設でした)。非常にユニークな人で、恐らく現在の運用業界でも注目すべき一人だと思います。先日、本屋を覗いたら、奥野さんの新著『ビジネスエリートになるための教養としての投資』を見つけました。さっそく読んでみたのですが、徹底したバリュー投資家である奥野さんの姿勢が分かると同時に、投資を“ビジネスマンの教養”として根付かせようとする熱意にちょっと感心しました。私もブログのサブタイトルに「教養としての国際分散投資の研究と実践」とあるように、“市民の教養としての投資”をテーマにしています。その点でいろいろと共感する部分、また違和感を感じる部分があって面白かったです。関心のある方は読んでみてはいかがでしょうか。

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