2019年9月23日

農林中金バリューインベストメンツのブロガーミーティングに参加―会場の京都ラボが素晴らしい施設でした



このほど農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)さんのブロガーイーティングに声をかけていただきました。今回は会場が京都ということで参加したのですが、NCVIの奥野一成さんと非常に有意義な意見交換ができました。また、印象深かったのが会場となった京都ラボ。もともとは寺院だった建物を再利用し、投資・運用関係の企業が教育・研究拠点として活用しています。そうした環境でNVICさんが取り組む長期保有を前提としたバリュー投資戦略についていろいろと意見交換できたのは、じつに楽しい経験でした。

農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)は、農林中央金庫の投資部に2007年に作られた長期厳選投資専任担当チームが14年にスピンアウトして設立れた投資助言会社です。農林中金はじめ機関投資家向けの投資助言が本業ですが、最近では同社の助言によって運用されている農林中金全共連アセットアセットマネジメント(NZAM)のアクティブファンド「長期厳選投資おおぶね」(9月21日付で「農林中金<パートナーズ>米国株式長期厳選ファンド」から名称変更)がSBI証券や楽天証券で販売されるなど、個人投資家へのアプローチを強めています。そのためブロガーミーティングも実施しており、今回は私にも声をかけいただきました。

ミーティングではNVICの奥野一成常務取締役CIOといろいろと意見交換することができました。奥野さんとお会いするのは初めてだったのですが、非常にユニークな人でした。とにかく徹底したバリュー投資派で、その考え方がNVICの投資戦略に色濃く反映されています。「構造的に強靭な企業」を厳選し、売買ではなく徹底した長期保有で企業価値自体の成長からリターンを得ることを目指しており、このため同社の投資助言は少数銘柄への集中投資となり、実際に20~50社程度でポートフォリオを組んでいます。非常にバリュー投資派らしいアクティブ運用なわけです。

私はインデックス投資を資産形成のコアにしながら、趣味的に個別株へも投資しています。個別株投資はどちらかというとバリュー投資派なので、奥野さんの話はいろいろと納得できる点が多かったです。例えば「株式投資の目的は売買で短期的に儲けることではなく、優れた企業の“オーナー”のなってその企業が生み出す利潤を長期的に得ること」というのには全く同感です。ところが、そういった株式投資が本来持つ意味が日本ではあまり一般化していないという奥野さんの危機意識にも共感します。ちなみに奥野さんの投資についての考え方については分かりやすいインタビューがYouTubeにアップされています。



また、奥野さんはインデックス投資の意義は十分に認めている一方で、日本株のインデックス投資にはかなり批判的。これはインデックス投資が悪いということではなく、日本の株式指数、つまり代表的な日本株インデックスであるTOPIXの品質の問題です。例えば米国株を代表するインデックスはS&P500ですが、これは米国の上場企業約5000社から500社を選び出し、定期的に入れ替えが行われています。また、米国の株式市場は上場基準が厳しく、問題を抱えた企業は上場廃止になります。一方、TOPIXは東証1部上場企業すべてが含まれます。その上、上場基準の運用はグダグダで上場ゴールやゾンビ企業と思われても仕方ないような企業がある。こういう状況では「TOPIXはクソ」と言われても、ある意味で仕方ない側面があるわけです。そしてその責任はインデックスではなく日本取引所グループ(JPX)にあるといっていいでしょう。

そのほか社会人の「教養」としての株式投資という論点にも話が及びました。これは私も非常に重要だと思う観点です。日本は庶民の間で教科書レベルの経済学的知識がまったく共有されていません。だから書店を覗くと「1ドル=50円になる」「バイパーインフレになる」「●●なんかおやめなさい」といった内容の、いわば“ハルマゲドン経済論”ともいうべき書物があふれかえる。しかし、実際に投資について真面目に勉強していると自然と市場や経済の仕組みについて理解できるようになりますから、こうしたトンデモ経済論に惑わされなくなるのです。私はそれを「真面目に投資すれば、儲かるかどうかは分からないけど、社会人としての洗練度は上がる」と主張してきました。だからこそ運用会社が受益者に対して“学びの場”を提供することは、とても大切な付加価値だと思うのです。そういったこともいろいろと発言させてもらいました。

そんなわけで非常に楽しいブロガーミーティングでした。農林中金グループといえば日本を代表する機関投資家で、日本最大のヘッジファンドだという評価すらあります。しかし、その農林中金グループですら個人投資家とのコミュニケーションを重視するようになり、日本の投資文化を変えようと努力している姿勢がNVICの活動を通じてよくわかりました。やはり時代は大きく変わろうとしているのでしょう。また、NVICが投資助言するファンドにも関心がわきます。私はアクティブファンドでも面白いと感じるファンドは趣味的に購入しているので、これからいろいろと検討してみたいと思います。

ところで今回のブロガーミーティングは京都ラボという場所で実施されたのですが、これが素晴らしい施設でした。もともとは臨済宗の明道寺という寺院だった建物を再利用し、いくつかの金融関連企業が人材育成や研究開発の拠点として利用しています。日本間を改装した室内はなんとも落ち着きがあって良い。部屋から見える瀟洒な庭も素敵です。





この日は途中から雨が降り出したのですが、雨が庭木を打つ音を聞きながら、それこそ運用会社のスタッフと個人投資家・ブロガーが車座になって投資の意味について議論するというのは、なんとも贅沢な時間でした。とくにバリュー投資や長期投資というのは、それこそ都会の喧騒を離れて、京都のような“本質を見極める感性”を育む落ち着いた環境でこそ実行できるものなのではないでしょうか。ウォーレン・バフェットはネブラスカ州オハマに拠点を置き、日本でも“日本のバフェット”と呼ばれる大物個人投資家が東京ではなく名古屋に住んでいたのは偶然ではなないように思えます。今後も機会があれば京都ラボで行われるイベントなどにも参加したいと思いました。

関連コンテンツ