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2019年10月13日
前提条件や目的の異なる金融商品を単純比較するのは愚かな行為である
日経新聞に個人年金保険についての記事が載っていました。なにげなく読んでいたのですが、読み終わってなんとも釈然としないものを感じました。
個人年金保険の節税効果 条件厳しくイデコより限定的(NIKKEI STYLE)
なぜ釈然としないのかというと、単純に節税効果だけを比較して個人年金保険よりも個人型確定拠出年金(iDeCo)の方が優れているかのように記述するのは、いささか乱暴だと感じたからです。そもそも個人年金保険とiDeCoは前提条件や目的が異なります。前提条件や目的の異なる金融商品や制度を単純比較するのは愚かな行為だと思うのです。
記事では掛金が所得控除となることに焦点を当てて個人年金保険とiDeCoを比較し、iDeCoの方が控除枠が圧倒的に大きいことを紹介しています。これは事実なのですが、比較が単純すぎて乱暴。例えば個人年金保険は定額型なら基本的に元本保証ですが、iDeCoは運用商品に定期預金や個人年金保険を選ばない限りは元本保証はありません。
さらに節税効果だけを比較するという点でもこの記事は誤解を招きます。たしかにiDeCoの掛金は全額が所得控除されますが、これは正確には課税繰り延べです。このため受給時に退職所得控除や公的年金等控除を適用した上でiDeCo資産全額が課税対象となります。一方、個人年金保険も受取時に保険金が課税対象となりますが、掛金は必要経費として控除されるので基本的には運用益だけが課税対象となります。
つまりこの記事は、制度の前提条件や目的が異なることを無視して単純比較しているわけです。それでiDeCoの方がメリットがるかのように書くのはミスリードを誘うことになる。もし個人年金保険とiDeCoを「節税効果」だけに絞って比較したいなら、iDeCoは個人年金保険や定期預金など元本保証商品で運用したとして月々の運営管理手数料負担や受給時の課税条件まで考慮して比較するべきです。その場合、はたしてiDeCoの方が優れれていると言えるのか。個人年金保険はメリットがないと言い切れるのか。
やはり前提条件や目的の異なる金融商品を比較することは難しいことなのです。例えば目的地に向かうのに車と船はどちらが優れているかを比較するのと同じこと。目的地が陸地続きなのか島なのかで結果は変わってくるでしょう。つまり、比較するなら商品の前提条件や目的に対して正しく理解をした上で比較のための条件整理が不可欠。それをせずに単純比較するのは乱暴であり、愚かな行為です。
こうしたことを考えると、今回の記事のように個人年金保険とiDeCoのどちらが優れているかなどは、それほど単純に結論が出る問題ではありません。それぞれ前提条件と目的が異なるからです。それよりも、それぞれの商品の前提条件や目的をしっかりと理解した上で、自分がそれを使うのか使わないんかを考えることの方が圧倒的に重要になります。実際に私自身も個人年金保険とiDeCoの両方をやっています。それぞれにメリットとデメリットがあることを理解した上での判断です。こうした判断をすることが、ある意味では「自己責任」ということなのです。
ちなみに、投資ブログなどでよく話題になる「アクティブファンドか、パッシブファンドか」といった議論も同じことでしょう。やはり前提条件や目的が異なるのですから、単純比較するのは愚かな行為です。それよりも、その商品が自分にとって必要なものなのかどうか、あるいは自分が本当に資金を投じたい価値を持っているのかを見極めることが大切。それが自立した投資家になるということだと思うのです。
【ご参考】
投信ブログなどでは悪く言われることの多い生命保険や個人年金保険ですが、正しく理解して利用すれば素晴らしい仕組みであり商品です。生命保険については出口治朗さんの『生命保険とのつき合い方』が非常にわかりやすい入門書です。このブログでも紹介しました。
『生命保険とのつき合い方』-生命保険の本義に基づく入門書
また、iDeCoは公的年金を補完する制度のため、正しく活用するためには公的年金に関する理解が不可欠です。公的年金の仕組みをしっかりと踏まえた上で、iDeCoなどの活用法を解説している田村正之さんの『人生100年時代の年金戦略』が参考になります。これも少しだけブログで紹介しました。
年金について語るならこの2冊を読んでからにしよう