2015年11月2日

『生命保険とのつき合い方』-生命保険の本義に基づく入門書



普通の日本人にとって、株式や債券よりも身近な金融商品は生命保険です。ところが生命保険の仕組みというのは非常に難しく、普通の庶民がしっかりと理解するのはハードルが高いともいえます。そんな生命保険との“つき合い方”を分かりやすく解説してくれる1冊として出口治明さんの生命保険とのつき合い方 (岩波新書)が刊行されました。一読してじつに納得。生命保険の本義に基づく解説がなされています。そもそも生命保険とは何か、生命保険とはどういった金融商品なのかといったことがよくわかります。生命保険について一通り知っておきたいという人は、最初に読むべき入門書といえるでしょう。

著者の出口さんは、ご存じライフネット生命の代表取締役会長兼CEOです。業界で長らく門外不出とされていた生命保険の手数料(付加保険料)を公開したことで業界に衝撃を与えました。そんな著者ですが、ライフネット生命に関する宣伝臭は皆無。あくまで保険のプロとして40年以上にわたって活動してきた経験を踏まえ、極めて率直に、そして中立な立場で書いていることがよくわかる内容です。

本書がまず信頼できると感じたのは、生命保険は“あくまで公的セーフティーネットの補完である”という大前提を踏まえていること。だから前半部分のかなりのページを公的セーフティーネットの紹介と解説にあてているのが良心的です。これは非常に大切なことです。世の中には公的セーフティーネットが信頼できないといって過剰に民間の保険や貯蓄・投資に走るバカがいるのですが、こうした行為を出口さんも「大変愚かな行為」と断言しています。

また、かつて日本では生命保険は「保険金がいくら必要か」を基準に商品を選択していましたが、現代は「保険料をいくら払えるか」を基準に選択すべしとも指摘しています。なぜかというと、経済成長が続く時代は契約初期に多少保険料の支払いがきつくても、やがて所得が上昇するケースが多いので負担は小さくなっていきました。しかし現在はなかなか所得が増えない時代ですから、高額な保険料支払いは家計を圧迫するだけになってしまうからです。月々の保険料支払額は、手取り収入の3~5%までに抑えるべしというのが出口さんの提案ですが、これなら手取り20万円なら6000円~1万円ですから、まったく妥当な水準です。

そのほか、現在のような低金利では予定利率が低いので、生命保険に貯蓄・投資としての妙味はないとも断言します。もし資産形成を考えているのなら、生命保険ではなく「投資信託が面白い」と生保会社のトップ自らがアドバイスしているのも、この本が信用できる面白い点でしょう。

もちろん入門書として必要な様々な生命保険についての解説や、どういったケースで購入を検討するべきかという点も親切に解説しています。例えば、社会人がまず最初に購入を検討すべき生命保険は就業不能保険だという指摘には同感。また、子育て世代には収入保障保険よりも定期死亡保険の方が好ましいという著者の見解についても「なるほど」と思いました。

後半部分は、やや専門的になりますが保険料が決まる仕組みについてかなり詳細に解説されています。この部分まで読めば、はっきりいって生命保険に関する知識としては素人の域を出ます。おそらく生保のセールスレディーでも、ここまで完璧に理解している人は少ないのではないでしょうか。同時に、生命保険の仕組みがわかれば、保険に“損得勘定”を持ち込むことの愚かさにも気づくでしょう。そもそも保険は万が一のリスクに備えるものですから、損得で考えるものではない。実際に保険料も厳密な数理計算に基づいて算出されているので、純保険料の部分は、どの保険会社の商品でも大差ないということが分かります。

ところが営業保険料の中には純保険料のほか、保険会社の運営経費をまかなう手数料として付加保険料が含まれています。日本では金融リテラシーの高い人ほど生命保険を信用しない傾向が強いのですが、その理由が、この付加保険料の水準が不明瞭だからです。この点に関して著者は、ことさらに言上げることはしていませんが、純保険料+付加保険料=営業保険料だという原則を踏まえたうえで「営業保険料の違いは付加保険料の違いよるところが大きいという点を理解することが、保険料の仕組みを理解するキーポイントになるのです」とサラリと書いているところに、かえって非常に強いポリシーを感じました。

普通の市民としては、この1冊の内容が理解できていれば十分でしょう。もう生保のオバサンの勧められるままに、よくわからない保険に入ることもなくなるはずです。そもそも生命保険も金融商品ですから、本来は自分が仕組みを理解できないものは買ってはいけないのです。仕組みがわかっていればこそ、納得も得心もして保険に入ることができます。それは市民生活にとって大切なことです。その意味でも、本書は簡便にして非常に役立つ1冊だといえるでしょう。

(さらに生命保険について本格的に勉強するなら、同じ著者の生命保険入門 新版を読んでみてもいいでしょう。)

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