2019年8月12日

AIは投資の意味を本質的に変える



近年、AI(人工知能)を活用した投資信託に注目が集まっていたのですが、現実は厳しいようです。AIを活用した投資信託の運用成績がパッとしないという記事が出ていました。

AI投信、苦戦目立つ 「新局面」対応に課題(NIKKEI STYLE)

もちろん現在のAIはまだまだ黎明期ですから、今後の技術的発展によって投資で大いに活用できる時代が来るかもしれません。ただ、AIが投資で活躍できるほどの精度を持つような時代になれば、投資だけでなく世の中の仕組み自体が大きく変わるはずです。案外、そのことの方がAIと投資の関係という面ではインパクトが大きいのでは。AIの発達・普及は、運用技術のような些末な問題ではなく、それこそ「投資」という営みの意味を本質的に変えてしまうように感じます。

記事によると、AIを投資判断に活用して株式に投資する国内販売のアクティブ投信15本のうち、2019年6月末時点で設定から1年以上たった投信10本の騰落率はすべてマイナスだったそうです。しかもインデックスに対して大きくアンダーパフォームするなど不振が目立ちます。現在のAIでは、それこそトランプ米大統領のツイートで揺れるような「アナログ相場」に対応できなかったわけです。

ただ、これをもってAIが投資に役立たないと考えるのは早計でしょう。ようするに現在のAIの技術水準が低いだけかもしれないからです。もっとAIの性能が向上すれば、それこそ「アナログ相場」にも対応できるようになるかもしれません。そうなれば、やはりAIは投資判断で存在感を発揮できるはずです。そして、アクティブファンドのファンドマネージャーの仕事を大きく減ることになり、一部の人は仕事を奪われて失業するかもしれません。

ここで考えなければならないのは、AIがアナログ相場にも対応できるほど発達した場合、仕事を奪われるのはファンドマネジャーだけなのかということです。そんなはずはありません。優れた投資判断ができるほどの性能を持ったAIが登場すれば、ほとんどの頭脳労働を代替できるようになるはずです。ここにAIの登場が従来の機械化とはまったく異なるインパクトを持っている理由があります。

従来、機械化・自動化というのは常に単純労働を代替する形で普及してきました。ところがAIの場合、人間の専売特許だと思われてきた頭脳労働を代替しようとしています。だからこそAIによって人間の職が奪われる懸念が盛んに話題となる。オックスフォード大学のマイケル・オズボーン博士は「雇用の未来」という論文で、AIの発達によって多くのホワイトカラー職が消滅し、雇用は一部のcreativityとsocial skillが必要なものに限られると指摘しています。creativityとsocial skillを持つ人は多額の報酬を得るようになるでしょう。一方、それ以外の人は失業するか、それこそ自動化投資を償却できないくらい生産性の低い(=低賃金)労働に従事するしかないかもしれません。

これは、労働者が「クリエイティブな高収入労働者」と「非クリエイティブな低収入労働者・失業者」に分断される可能性があるということです。そして、こうした格差や分断をどうやって乗り越えるべきかが問われています。近年、ベーシックインカムの必要性などが真面目に議論されるようになったのは、この文脈からなのです。

こうしたことを考えると、AIの登場というのは投資にとって運用技術のよう些末な問題ではないはずです。もっと大きな意味を持っている。投資という営みの意味を本質的に変えてしまう可能性があります。未来の社会で起こる格差や分断を乗り越える、つまり「クリエイティブな高収入労働者とロボットやAIが生み出す利潤吸い上げる企業」から「非クリエイティブな低収入労働者・失業者」に利潤を移転する手段としての株式投資です。そして、こうした考え方は既に専門家の間でも真剣に論議されています。そのことは以前にこのブログでも紹介しました。

ロボットやAIの普及がもたらすのは社会の二極化ではなく三極化―格差是正のために資本(=株式)の社会的所有が重要になる

まだまだ投資にはあまり役に立たないAIだけれども、もっと本質的なところでAI登場の意味を考えることが必要でしょう。

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