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2019年5月12日

ロボットやAIの普及がもたらすのは社会の二極化ではなく三極化―格差是正のために資本(=株式)の社会的所有が重要になる



現在、日本でもできるだけ多くの国民が株式を保有する必要性を指摘する声が大きくなっています。なぜ株式投資が普及しなければならないのか。短期的には少子高齢化社会を背景に先細りが避けられな老後の社会保障を補完するためにほかなりません。しかし、もう少し中長期的な視点でで考えると、それはロボットやAIなど新しいテクノロジーの普及によって生じる経済的格差を是正するための手段になりえるかもしれないからではないでしょうか。ロボットやAIの普及は社会構造を大きく変化させ、経済的な二極化をもたらすと指摘されています。しかし、実際に起こるのは二極化ではなく三極化ではないでしょうか。そして、その第三極に加わることが格差是正の切り札になる可能性があります。それは株式投資による“資本の社会的所有”の重要性が高まるということです。

ロボットやAIの普及によって多くの職業が消滅するという議論は、2013年にオックスフォード大学のマイケル・オズボーン博士らが発表した「雇用の未来」という論文で世界的に注目を集めました。

Carl Benedikt Frey and Michael A.Osborne THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?

これによると今後10~20年程度のうちに自動化される可能性が高い仕事は全体の47%にも及び、しかも単純作業ではなく従来はかなりの知識労働と考えられていた職種まで自動化されると指摘します。そして、自動化されにくい職業は高いcreativityとsocial skillが必要はものになります。

これが意味するのは、雇用の二極化でしょう。多くのホワイトカラー職が消滅し、雇用は一部のcreativityとsocial skillが必要なものに限られる。そういった人は多額の報酬を得るようになるでしょう。一方、それ以外の人は失業するか、それこそ自動化投資しても投資額を償却できないくらい生産性の低い(=低賃金)労働に従事するしかないわけです。実際にオズボーン博士は次のように述べています。
そもそも未来の階層図に中間層は存在せず、一握りの上層とその他大勢の下層で構成される『フラットで裾広がりの三角形』となる。
マイケル・A・オズボーン博士の「未来の雇用」。AIではなくマシン・ラーニングから考える(AXIS))

こうした経済的格差の拡大に対して社会はどのように対応するべきでしょうか。近年、すべての国民に最低限必要な生活費を政府が支給すべしという「ベーシックインカム」の議論が盛り上がるようになりましたが、その背景のひとつにはロボットやAIの普及が具体的に視野に入ったことによる経済的格差拡大の懸念が大きくなってきたからにほかなりません。

それでは本当に未来の社会は二極化するのでしょうか。労働者という観点で見れば、大いに可能性があると思います。しかし、少し視点を広げると違った見方もできるはずです。それは「資本」という観点です。確かにロボットやAIが普及すれば、労働者は「クリエイティブな高収入労働者」と「非クリエイティブな低収入労働者・失業者」に分断されるかもしれません。しかし、その「クリエイティブな高収入労働者」を雇うのは誰なのか。あるいはロボットやAIだ生み出す利潤を誰が得るのかという問題です。それこそ「企業」であり、その資本の所有者にほかなりません。現在の資本主義社会では、それは「株主」という存在に代表されます。

つまり、未来の社会の格差というのは、二極化ではなく三極化ではないでしょうか。「クリエイティブな高収入労働者」と「非クリエイティブな低収入労働者・失業者」という二極に加えて、「クリエイティブな高収入労働者とロボットやAIが生み出す利潤を吸い上げる企業の株主」という第三極の存在が一段と大きくなる可能性があるように感じます。そして重要なのは、「非クリエイティブな低収入労働者」が「クリエイティブな高収入労働者」に変身することは極めてハードルが高い一方、株式さえ保有すれば「クリエイティブな高収入労働者とロボットやAIが生み出す利潤を吸い上げる企業の株主」には誰でも簡単に移行できるということです。ここに未来の社会における格差是正のヒントがあります。

じつはこうした考え方は、既に専門家の間で真剣に議論されています。英国の左派系シンクタンクである公共政策研究所(IPPR)はManaging automation:Employment, inequality and ethics in the digital ageという調査報告書で、やはり自動化・ロボット化によって多くの仕事が失われ賃金格差が拡大すると指摘しています。しかも、無人・自動化によって高賃金労働者の賃金が増えたり、新しい仕事も生まれますが、それ以上に支払う必要がなくなった賃金によって企業利益が最大化されるとも分析しているのです。

そしてIPPRの報告書で興味深いのは、こうした問題に対する処方箋です。それこそが、多くの市民が資本(=株式)を保有し、ロボットやAIが生み出す利潤が社会に還元される仕組みを作ることです。「5. New models of capital ownership are needed to ensure automation broadens prosperity rather than concentrates wealth」のパートで次のように書いています。
A major goal of public policy should therefore be to seek to disperse and pluralise ownership in society, building institutions where the wealth generated by technological change is more widely shared.This should go hand in hand with efforts to recirculate the productivity gains of automation through wage bargaining, by improving workforce skills and through taxation of the profits of automating companies. A number of measures could more widely distribute capital ownership.
報告書によると、英国でもトップ10%の富裕層が株式全体の77%を所有しており、このままではロボット・AI化の利潤は労働者ではなく、一部の富裕層が独占してしまう。それを防ぐためにも、幅広い市民が株式を所有する必要がある。そのための具体的な方法として、市民が出資するファンドを作ってロボットやAIを所有する企業から配当を受け取る仕組みを構築することや、従業員が株式の一部を保有する従業員持株信託(EOTs)などを提唱しています。

日本ではいまだに「株式投資は金持ちがやることで、庶民には関係ない」とか「政府が株式投資を促進することは金持ち優遇だ」という声がありますが、はっきり言ってそうした考え方は世界の動きの中で周回遅れもはなはだしい。いまや先進国の多くで、今後のロボット・AI化がもたらすであろう格差問題を解決するために株式投資の普及という方法を真剣に議論している。金持ち優遇どころか、格差是正のためにも資本(=株式)の社会的保有が重要になるのです。

カール・マルクスは『資本論』第3巻(正確には、生前未刊行の草稿)で株式会社こそ資本の社会的所有に至る過渡期の形態である可能性を示唆し「株式会社は未来社会への通過点である」「株式会社は詐欺師と預言者の顔をもつ」と書きました。今後、ロボット・AIの普及によって未来社会の労働者は二極化するかもしれません。しかし、資本の社会的所有という方法によって、だれもが第三極にも足場を築き、格差から脱却できる可能性があるのです。それは、まさに株式会社と株式投資というものが持つ“預言者”としての可能性に賭けることでしょうか。ここに現代社会において幅広い人が株式を保有することの本当の意味があると感じるのです。

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