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2019年5月14日

カルロス・ゴーンを奈落の底に落としたオプション売り―庶民はオプション売りを組み込んだ金融商品に近づいてはいけない



日産自動車の資金を不正流用したとして捜査を受けているカルロス・ゴーン元会長ですが、容疑のひとつに自身の資産管理会社が運用していたデリバティブ取引で生じた18億5000万円の損失を日産自動車に付け替えた特別背任(会社法違反)があります。いったいどんな取引をしたのかと思っていたら、やはりオプション売りだったとの報道が出ました。

ゴーン氏を破滅させた「投機的預金取引」の全貌!(JP PRESS)

日産を再建したカリスマ経営者であるゴーン氏すらも奈落の底に落としてしまうのですから、オプション売りというのはすごく怖いものです。そして、これはゴーン氏のような一部の富裕層に限定された話ではありません。じつは一般庶民に対してもオプション売りを組み込んだ金融商品が堂々と販売されており、一部の金融機関は熱心に勧誘しているのです。

オプション取引というのは、為替に限らず様々な商品を「将来の定められた期日(決済期日)に、定められた価格(権利行使価格)で対象物を買うもしくは売る“権利”を売買する取引」です。オプション料を支払って権利を買うことをオプション買い、逆に権利を売ってオプション料を受け取ることがオプション売りとなります。この仕組みについては楽天証券が分かりやすい説明を載せていました。

オプション取引の基礎知識(1)効果的なオプションの買い方とは(楽天証券)
オプション取引の基礎知識(2)オプションの売りがハイリスクの理由とは?(同)

ポイントは、おなじオプション取引でも「買い」と「売り」はリスクの性質がまったく異なること。オプション買いは、オプション料さえ支払えば相場が反対に動いても権利を放棄できますからオプション料支払いの損だけで済みます。一方、オプション売りは、期日までほぼノーリスクでオプション料が受け取れる代わりに、相場が急変してオプションの買い手が権利行使をした場合には、売り手はどんなに損失が生じるとしても、必ずそれに応じなければなりません。つまり、オプション買いの損失は限定的(そのかわり、まず儲からない)であるのに対して、オプション売りの損失は青天井となる可能性があります。このため通常、オプション買いは相場急変に備えた保険(オプション料の支払いは、いわば保険料)として利用されるのに対して、オプション売りはかなり投機的な行為となるわけです。

このためオプション売りは「99勝1敗でも全財産が吹き飛ぶこともある」と言われるのですが、カルロス・ゴーン氏の場合がまさにこれでした。しかも記事によると、オプション取引の元本そのものが新生銀行からの借入金であり、レバレッジ3倍というのですから驚きです。その上、取引商品はもっとも予想が難しい為替取引ですから、ちょっとした相場変動で即死でしょう。案の定、ゴーン氏は18億円以上の損失を抱え、奈落の底に落ちました。

経営の世界ではスーパーエリートだったゴーン氏ですら即死してしまうのですから、オプション売りというのはいかに難しい取引かということが分かります。このため普通はオプション取引、とくにオプション売りは一般庶民が手を出すような投資手法ではありません。ところが日本の金融業界の異常な点のひとつに、一般庶民に対してオプション売りを組み込んだ金融商品が大々的に販売されており、しかも一部の金融機関は熱心に勧誘もしているということです。例えば仕組債券(ノックイン債券)や仕組預金、あるいは2階建て・3階建てと呼ばれるタイプの毎月分配型投資信託などです。

これらの商品は、投資対象にオプション売りを組み込むことで得るオプション料収入によって見かけの金利や分配金を水増しすることが狙いですが、やはり相場が急変すると大幅な元本割れになったり基準価額が暴落したりします。いずれも「損失は青天井」というオプション売りの性質によるものです。こうしたことを知っていれば、一般庶民はオプション売りを組み込んだ金融商品に近づいてはいけないということがよくわかるでしょう。ネット証券などでも盛んに勧誘が行われていますから、投資初心者はとくに気を付けてほしいと思います。

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