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2016年3月10日

国家をなめていると奈落の底に突き落とされるよ―金融庁が「2階建て」などハイリスク投信の監視強化



ブルームバーグにすごい記事が載っていました。なんでも金融庁が株式や債券投資に為替取引やオプション取引を組み合わせたいわゆる「2階建て」「3階建て」投信に対する監視を強化するそうです。

金融庁:「2階建て」などハイリスク投信の監視強化-投資家保護徹底(ブルームバーグ)

2階建てや3階建て運用の投資信託というのは極めて不誠実な商品が多く、よくもまあこんな商品を日本の金融機関は売りさばくものだと呆れ、私も新旧のブログでも何度か取り上げていました。

「3階建て」「4階建て」投資信託のトータルリターンが悲惨なことになっている
オプション取引は怖いぞ-「三階建て」「四階建て」投信はそのうち大変なことになる(アーツ&インベストメント・スタディーズ(別科))

そのうち、ちょっとした社会問題になり、そうなればお上も黙っていないと思っていたのですが、本当に金融庁が動きだしたわけです。しかも、その反応は想像以上に強烈なものでした。「2階建て」などの投信を大々的に販売している金融機関にとって恐ろしいことが起こっています。金融業界というのは基本的に規制産業ですから、国家が本気になって怒ると、とんでもなく怖い。国家をなめていると奈落の底に突き落とされることが本当にあるからです。

今回の金融庁の動きに対して、すでにブロガーのわかま屋さんが詳細な記事を書いています。

金融庁が悪質2-4階建て投資信託への監視を強化するという朗報(一方通行投資で気楽に資産形成。)

私が言いたいことを、ほぼ言い尽くしてくれているので、ちょっと書くことがなくなってしまったのですが、少しだけ補足したいと思います。

まず、今回のブルームバーグの記事でなにが驚いたかというと、金融庁の遠藤俊英監督局長が直接取材に応じて発言していることです。少しでも省庁に出入りしたことのある人なら分かると思うのですが、役所というのはポジションによって許される発言内容の裁量が厳格に制限されています。メディアの取材には課長補佐クラスが対応することが多く、この場合は省庁の公式見解以上の内容は出てこない場合が多い。課長クラスが登場すると、もう少し踏み込んだ内容が語られます。しかし、今回は局長が登場した。官庁で局長というのは最高幹部の一角ですから、その発言内容は、すでにその省庁の中でコンセンサスとなっている決定事項や具体的な方針・政策だと考えることができます。それで出てきた発言が次のようなものでした。
同庁の遠藤俊英監督局長がブルームバーグの取材に答えた。経験の浅い個人投資家や高齢者などへの過度な高リスク商品の販売は、本人が納得していた場合でも「問題がある」などと指摘。監視・監督強化のため運用会社や銀行、証券会社の経営陣にヒアリングを始めており、問題点などを共有する。
これはすごい発言です。金融機関というのは賢いので、複雑な商品を販売する際には契約者に対して厳重な意思確認をして法務リスクを回避しています。しかし問題なのは、とくに高齢者などは自分が商品説明の内容を理解できていないこと自体を理解できず、確認書にサインしてしまうこと。こうなると金融機関は形式主義と法令遵守の名の下に、やりたい放題できてしまう。こういう実情に対して金融庁の監督局長が「本人が納得していた場合でも『問題がある』」と言いきってしまった。これは金融機関にとって衝撃的な発言です。事実上、金融機関が複雑な高リスク投信を投資初心者や高齢者に販売することを、例え法的な形式が順守されていたとしても、金融庁として是認しないというふうに理解できるからです。

さらに衝撃的な発言が続きます。わかま屋さんも指摘している手数料水準の問題です。
遠藤局長は「複雑な商品は説明が複雑で顧客も理解しづらい。言い過ぎかもしれないが、高い手数料を取るために売るんじゃないかと思ってしまう」と述べた。その上で「業界として長年のビジネス慣行をぜひ改めてほしい」と期待感を示した。
ついに言ってしまったという感を禁じえません。こういった発言は、それこそ多くの良心的な投資評論家から個人ブロガーまで、これまで再三あったわけですが、今回これを発言しているのは金融庁の監督局長です。おそらく金融機関の関係者は冷や汗が出たのでは。金融機関にとって世間から批判されるのと、監督省庁から指摘されるのでは、意味がまったく異なるからです。これも金融庁として現在の一部の投資信託の手数料水準を是認しないし、是正を要請していると読めます。

ブルームバーグの記事には三菱UFJフィナンシャルグループと三井住友フィナンシャルグループ、大和証券の関係者が登場しますが、遠藤局長の発言に対して苦しい言い訳に終始しているという印象を受けます。そこには、金融庁の意向を受け流そうとしていると見ることもできますが、私はどちらかというと冷や汗をかきながら、シドロモドロになっているような印象を受けました。三井住友FGの関係者が「販売に当たっては慎重に対応しており、当行の売れ筋投信には入っていない」と、やや頓珍漢な返答をしてしまうあたりに、責任回避に躍起になっている姿が垣間見えます。

今回の遠藤局長の発言は事実上、金融機関に対する金融庁からの非公式な通達です。「投資初心者や高齢者に複雑で高リスクな投信を売るな」「高額な手数料も改めろ」ということです。同時にこれは警告でもあります。まずはメディアを通じた非公式の通達で業界の自浄作用を促しながら、それが実行されない場合は具体的な監督行為や規制を実施するぞという金融庁の強い意志が示されているのではないでしょうか。

さあ、金融機関はこれからどうする? さすがに無視はできないでしょう。金融業というのは基本的に規制産業ですから、なによりもお上が怖い。国家というのは概念ではなく、実在するものですから、なめていると本気で潰しにかかってきます。実際に、例えば商品先物取引の業界などは個人投資家に対して無茶苦茶なハメ込み営業を続けてきたあげく、当局からの再三の警告も無視したことで、最後は不招請勧誘を禁止されてリテール事業は奈落の底に突き落とされました。いまでも瀕死の状態です。だから、今回の遠藤局長の発言は、ものすごいインパクトがあります。これに対して、日本の金融機関がどういった対応をとるのか、目が離せないと思います。

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