2019年4月24日

老後の経済的不安は世界共通の問題



日本では年金危機や医療費増加などが叫ばれ、老後の経済的不安が高まっているわけですが、これは何も日本に限ったことではありません。いわば世界共通の問題となっていることがよくわかる記事がブルームバーグに載っていました。

辞めるのが怖い、働き続ける米高齢者増える(ブルームバーグ)

アメリカ人も日本人以上に老後の経済的不安を抱えているわけです。こうした問題を解決するためには政策レベルでの取り組みが必要なのはもちろんなのですが、同時に個人レベルでできることは二つしかありません。

ブルームバーグの記事によると、米国でも退職年齢世代の労働参加率が右肩上がりで上昇しています。背景にあるのは老後の経済的不安。実際に米国でも社会保障給付の所得代替率が40~50%となっており、十分な蓄えがなければ安心してリタイアできないという構図です。そして、老後の蓄えも非常に少ない。ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチのテレサ・ギラルドゥッチ教授の調査では次のような実態が明らかになりました。
同教授の調査によれば、所得分布で下半分を占める年収4万ドル未満の人々には退職後の蓄えがなく、その上の40%の年収4万-11万5000ドルの人々は6万ドル(中央値)、11万5000ドル以上を稼ぐ上位10%は20万ドルをそれぞれ蓄えている。
ほとんど日本と似たり寄ったりの結果です。一部の高収入者を除くと、やはり十分な老後資金を準備できていない人が多いわけで、これでは不安でリタイアできないのも当然です。ちなみに、こうした状況は日米など先進国だけでなく中国や韓国といった新興国でも同様です。中韓などは日本以上に少子高齢化のスピードが速く、おまけに公的年金制度も先進国に比べて未成熟ですから、事態はもっと深刻。つまり、老後の経済的不安というのは世界共通の問題なのです。

こうした問題にどう対処すべきでしょうか。政策レベルでは様々な改革案がありますが、個人レベルでできることは二つしかありません。一つは、既に米国や日本の高齢者が実践しようとしているように「長く働く」ことです。これは身も蓋もない話ですが、世界中の社会保障問題の専門家の間では少子高齢化でも社会保障制度を維持するための解決策は既に結論が出ています。それは「長く生き、長く働く」。年金など社会保障制度の世界は純粋数理的に考えられていますから、(誰かから源資を奪うといった政治的・革命的手法を別にすれば)これ以外に解決策はないわけです。だから政府は高齢者が働きやすい環境整備をなんとか整備しようとしている。最近の政策の動きも、こうした視点で見ればすべて平仄が合います。

そしてもう一つの対策は、これも身も蓋もない話ですが、現役時代にしっかりと老後資金を蓄えるということです。米国は日本以上に自己責任原則が強い国ですから様々な金融教育が行われています。そこでは「現役時代に得ている収入は『現在の生活費+老後の生活費』だ」ということが非常に強調されます。なぜ、それほど強調されるのかと言えば、やはり日本と同じで十分な蓄えを持たずに年を取ってしまう米国市民が非常に多いからでしょう。そういえば先日、メジャーリーガーのイチローが年俸の一部を引退後の受け取りとする契約を結んでいたことを経済誌「フォーブス」が絶賛しました。イチローが絶賛される背景が米国にはあるのです。

日本人の多くが老後の経済的不安に悩まされているわけですが、なにも悩んでいるのは日本人だけではないのです。世界中の人が悩んでいる。そして、個人レベルで実行できる対策も、やはり世界共通です。つまり、「長く生き、長く働く」こと。そして「現役時代に得ている収入は『現在の生活費+老後の生活費』」ということを理解して現役時代から収入の一部を(貯蓄から投資まであらゆる手段を活用しながら)蓄えるしかない。じつに身も蓋もない話ですが。

結局、老後の経済的不安の一番のしんどさというのは、この“身も蓋もない”ことでしょう。ここで指摘したような対策について、多くの人は内心ではとっくの昔に気づいているのです。しかし、そのあまりに身も蓋もなさにげんなりする。それでつい問題から目をそらしたり、他人やお上のせいにする。でも、そうやって問題から逃げていても根本解決にならないどころか、時間の経過とともに事態はますます悪化するのです。だから、老後の経済的不安を解消するためには、いかに身も蓋もない答えを直視し、実行するという“勇気”にかかっている。そういった勇気ある人だけが本当の意味で老後の経済的不安を解決できるのだと思うのです。

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