2016年9月4日

資産形成・運用の究極の目的は「購買力の維持」



投資をして資産形成・運用を行っている人には、それぞれ目標があるはずです。最も一般的なのは老後への備えですが、それでは老後への備えとしていくら用意する必要があるのかといった疑問もわいてきて、いろいろと悩みは尽きません。結局、資産形成・運用の究極の目的は何なのでしょうか。そう思っていたら、バークレイズ日本法人の社長などを歴任し、年金運用のエキスパートである岡本和久さんが非常に分かりやすい動画をアップしてくれていました。



さすが大御所の言うことは的確だ。そうなんですよ、普通の庶民にとって資産形成・運用の究極の目的は「購買力の維持」に尽きる。そして、そういう資産運用の目的が分かると、資産形成が成功するかどうかを決定づける大きなファクターは、現役時代のライフスタイルにあるということにも気づきます。

岡本さんが指摘するように、確かにリタイア後の最大のリスクは購買力の低下にともなう「生活の質の大幅な低下」です。実際に現役時代に月20万円で生活していいた人が、退職後は月10万円で暮らすとなると、とてもひもじい思いをするでしょう。するとだんだんと精神が荒廃してくるので、人間性も意地悪くなって、いやな老人になってしまうかもしれません。人生の最終ステージがそれでは、あまりに寂しすぎる。

そこで若いころから資産形成をスタートさせて、投資でインフレによる資産価値の目減りを抑えながら、さらにプラスアルファのリターンを狙う。こうして積み上げた資産の配当・利子収入や取り崩しに加えて、最後の詰めで年金や老後の労働収入を組み込むことで、老後も現役時代と変わらない購買力を維持するという考え方は非常に合理的だし魅力的です。これなら孫にお小遣いだって奮発できるし、趣味や人付き合いも遠慮なくできる。するとストレスも低下して健康状態が良くなり、寿命も延びるでしょう。

まさに資産形成・運用の王道ともいえる考え方だと思いました。そして、この考え方を敷衍すると、さらに重要なことが分かってきます。それは、こうした考え方の前提となる「購買力」とはどうやって決定されるのかという問題です。

ものすごく当たり前のことですが、そもそも「購買力」を決定するひとつのファクターは現役時代の収入です。収入が十分でなければ、そもそも満足のいく「生活の質」を確保することはできません。ここに資産形成においてもっとも重要なのは、やはり現役時代に仕事を頑張って、まずは全力で収入を高めることが重要であるという理由があります。そもそも収入が十分でなければ、資産形成に回す原資すら確保できない。投資にのめり込んで本業がおろそかになるようでは本末転倒なのです。

そしてもうひとつ「購買力」を決定づける重要なファクターは、現役時代の支出のあり様です。つまり、どれだけの支出で「満足のいく生活の質」を感じることができたかというライフスタイルの問題。例えば、いくら現役時代に収入が多くても、贅沢三昧の生活が当たり前になると、満足のいく生活の質を確保するために必要な購買力も非常に大きなものになります。それを退職後も維持しなければならないとなると、資産形成・運用のハードルが極めて高くなる。投資に回す金額をかなり多くする必要があるのですが、リスクを高めてハイリターンを狙う運用をして失敗する例も少なくないようです。

この観点を持つと、資産形成・運用の成功率を高める方法論が見えてきます。まず現役時代は収入を高めることに全力を上げながら、効率的な支出で満足のいく生活の質を確保できるライフスタイルを築く。その上で資産形成・運用に着手する。こうすれば退職後も確保しなければならない「購買力」はそれほど大きくなりませんから、運用でハイリターンも狙う必要もなくなる。当然ながらリスクを抑えた運用で十分ということになるになるので、必然的に運用の成功率が高まるわけです。あとは早いうちから資産形成・運用に着手するかどうかと、効率的な支出で「満足のいく生活の質」を実感できるライフスタイルを築けるかどうかにかかっているわけで、これは運用の巧拙の問題ではないのです。

こう考えると、じつはそれほど収入の多くない庶民でも資産形成・運用の成功率は高いといえます。なぜなら庶民はもともと大きな購買力を持っていませんので、退職後に確保しなければならない購買力もそれほど大きくならず、運用のハードルは低いといえるからです。逆に現役時代に高収入を得ている人の方が、現役時代のライフスタイルをよくよく考えないと退職後に必要な購買力が大きくなってしまい、資産形成・運用の難易度が上昇する。おそらく「老後破産」などが問題になるのは、意外と現役時代に高収入を得ていた人たちかもしれません。急激な購買力の減退で生活の質が大幅に低下してしまい、慌ててしまうのです。

結局、資産形成・運用の根本は「身の丈にあった生活」と「足るを知る」ということに尽きる。身も蓋もない話ですが、世の中というのは身も蓋もないものなのでしょう。そして、本物のお金持ちというのは、そういうことをよく理解している人たちであって、ものすごい資産家でも意外と質素な生活をしているものです。

「購買力の維持」が資産形成・運用の究極の目的だということが分かれば、投資に対する印象も変わります。べつにハイリターンを狙う必要はない。インフレ率+αのリターンでいいわけですから気楽な気持ちで投資を続けられるではありませんか。この程度のリターンなら、おそらくインデックス投資や優良企業の個別株投資で十分実現できるでしょう。たとえリターンがマイナスになっても、それ以上にデフレでインフレ率がマイナスになれば、やはり運用は成功と言えます。

だから無理に投資のリターンを高めることに努力するよりも、現役時代の収入を高めることと、効率的な支出で「満足のいく生活の質」を実感できるようなライフスタイルを築くことの方が資産形成・運用の成功を決定づけるファクターとしてよほど重要なのです。

【ご参考】
岡本和久んさんの資産運用についての考え方は、著書『公的・企業年金運用会社の元社長が教える波乱相場を〈黄金のシナリオ〉に変える資産運用法 かんたんすぎてすみません。』を読むとよく分かります。王道中の王道で、まったく奇をてらったところが無いのがいいです。

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