2017年7月28日

運用ビジネスモデルの構造転換は静かに起こる



先日、金融庁と個人投資家による「つみたてNISA」に関する意見交換会が行われました。今回は販売会社も参加したところが特徴です。あいにく私は(地方在住なので)参加できませんでしたが、今回も安房くんがtwitterでリアルタイム中継をしてくれたので、議論の一端を知ることができました(これから、いろいろなブロガーさんがレポートを上げてくれることでしょう)。その中でとくに印象に残った発言があります。そこからは、日本における運用ビジネスの構造転換が静かに起こるのだということを感じたからです。

今回の意見交換会には投資信託の販売会社として野村證券、大和証券、ゆうちょ銀行、SMBC、SBI証券、今村証券、静岡銀行、楽天証券が参加したようです。それぞれが「つみたてNISA」に向けた意気込みを語ったようですが、とくに興味深かったのは楽天証券の楠雄治社長による次の発言でしょう。



これこそが現在の金融機関が「つみたてNISA」や個人型確定拠出年金(iDeCo)など積立型の投資に力を入れている最大の理由だと思えるのです。すなわち「資産運用がお金がある人向けのビジネスから、これから積み立てていく人向けになっていくであろう」というのは、運用ビジネスの前提である市場構造が変わるということ。市場構造が変われば、当然ながらビジネスモデルも転換しなければなりません。

日本では従来、金融資産が高齢者に遍在する傾向が強かったですから、当然ながら運用ビジネスもこうした“お金を持っている高齢者”をターゲットとしたビジネスモデルが大きなウエートを占めていました。毎月分配型投信の隆盛などは、この典型です。しかし、こうしたビジネスモデルはいずれ破綻をきたすはずです。なぜなら、高齢者はいつまでも生き続けないから。

もちろん高齢者も世代交代しますから、その資産は相続によって次の世代の高齢者に引き継がれます。しかし、日本の相続制度は分割相続が原則ですから、相続を繰り返すうちに1人当たりの資産は細分化されていく。さらに相続税による目減りも無視できない規模です。つまり、“お金を持っている高齢者”を対象とした運用ビジネスというのは、いまのようなやり方では一種の焼き畑農業となり、いずれ行き詰まるのです。

一方、新たな市場が誕生します。“これから資産を築いていこうとする人たち”、すなわち「これから積み立てていく人」です。日本は財政的な制約から社会保障制度のこれ以上の拡充はかなり難しい。そうなると多くの人が若うちから老後に向けた資産形成を意識せざるを得なくなるはず。そういった人たちこそ運用ビジネスにおける新しい市場となるはず。これが運用ビジネスにおける市場構造の変化です。

こうして考えると、金融機関が決して収益性が高いわけではないiDeCoや「つみたてNISA」に積極的に取り組もうとしている理由が分かります。それは市場構造の変化に対応するためにビジネスモデルを転換しようとする経営戦略の一端であり、営利企業としても当然の判断なわけです。少なくとも金融機関の中には、この現実に気づいている人たちがいる。

現在の金融庁のやり方に対していろいろと不満の声も一部ではありますが、不満を漏らしているのは視野狭窄に陥った木っ端や三下であって、金融機関の上層部は案外と冷静に現実を直視しているのかもしれない。恐らく今後、そういったクールな判断を貫徹する金融機関が運用ビジネスで生き残るのだと思う。その時に、金融機関の上層部は現実を直視できない社員を冷徹に切り捨てていくでしょう。それは、あらゆるビジネスにおいて市場構造や産業構造が変化したとき生じた現象であり、金融機関や運用ビジネスもまた例外ではないはずです。

運用ビジネスの構造転換は静かに、しかし着実に起こるのです。
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