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2017年2月22日
先進国企業が新興国から搾取を続けるのは簡単ではない―フリーポート・マクモランも苦境に
あいかわらずジャカルタは天気が良くありません。21日は午前が大雨。この日は午前中に西ジャワ州カラワンまで出張したのですが、スムーズならジャカルタから高速道路で1時間ぐらいのところが3時間もかかってしまいました。やはり新興国というのは、何事も予定通りに進まないところなのです。渋滞中、やることもないのでタクシーの中で21日付の現地邦字紙「じゃかるた新聞」を読んでいると、ちょっと気になるニュースが載っていました。米国の鉱山企業大手であるフリーポート・マクモランが、パプア州に保有する鉱山運営を巡ってインドネシア当局と対立しているとのことです。先進国企業は新興国から一方的に成長の果実を搾取しているように思い込んでいる人もいるのですが、どうしてどうして、やはり搾取を続けることは簡単なことではなさそうです。
フリーポート・マクモランがインドネシアのパプア州に保有する鉱山は世界有数の金・銅鉱山であり、これこそフリーポート・マクモランにとっては収益力の絶対の源泉でした。ところが今年1月にインドネシアエネルギー鉱物資源省が新たな政令を施行し、鉱山運営に関して外資企業に対して通常の事業許可から特別鉱業事業許可への転換や、10年以内に鉱山を保有する現地子会社の株式51%以上をインドネシア側に売却することが義務付けられました。これがフリーポートにも適用されることになったわけです。
これは事実上、国家による外資企業の資産徴収です。しかも交渉がまとまるまで鉱物輸出が禁止されたため、フリーポート側としても鉱山を操業できず大変な苦境に陥っている。現地で当局と交渉にあたっていた現地法人社長も着任後3カ月で匙を投げて辞任してしまいました。このためフリーポートのリチャード・アドカーソンCEO自らが来イして当局と直接交渉したのですが、どうも雲行きが思わしくない。そのため20日にジャカルタ市内のホテルで記者会見を開き、当局との交渉が不調に終われば、政令が過去の契約に反しているとして国際仲裁機関に申し立てると発表しました。
新聞に掲載されているアドカーソンCEOの表情が示すように、フリーポート側がそうとう苦しい状況に追い込まれていることがうかがえます。そもそも国際仲裁機関への提訴というのがそれを象徴しています。なぜならインドネシア国内の司法に訴えても100%勝てないことを言外に認めているから。しかも国際仲裁機構の裁定でフリーポートの言い分が認められたとしても、はたしてインドネシアがそれを受け入れるか分かりません。
だからインドネシア側も意気軒高。イグナシウス・ジョナン・エネルギー鉱物資源大臣は「われわれも(国際仲裁機関に)訴える準備はある」「(憲法に基づき)天然資源は自国民の利益として考慮しなければならない」と受けて立つ構えです。もちろんインドネシアの国内世論は、当局の方針を支持しているようです。
これだけ読むと「民間企業の資産を国家権力が契約を無視して徴収するとは、新興国はケシカラン」と思うかもしれません。でも私は今回の件に対してフリーポートにあまり同情できない。なぜなら、これまでフリーポートはインドネシアでの鉱山経営で、それこそ環境破壊から労働者・現地住民への虐待など無茶苦茶やってきたからです。思う存分に搾取を続けてきたから、今度は自身が収奪されようとしている。ある意味で自業自得なのです。
こうした事例について投資家もよく研究する必要があると感じます。よく"新興国投資不要論"を唱える人が、その理由として「今後も先進国企業が新興国から成長の果実を搾取し続ける」といったことを言う場合があるのですが、あまりにナイーブな見方だと思います。そもそもいつまでも新興国が一方的に搾取されているだけだと思ったら大間違い。ときには国家権力まで登場して、それこそ暴力的に先進国企業から資産を収奪する場合だってあるのです。
そしてなにより「今後も先進国企業が新興国から成長の果実を搾取し続けるから、新興国への投資は不要」という意見に対して違和感を持つのは、そういうことを言う投資家が、先進国企業が新興国を搾取することを自明のこととして受け入れてしまっているように見えるから。それは投資判断以前に、国際関係における"倫理"として許されることでしょうか。
やっぱり投資は"プラス・サム"の世界だと信じたい。それは国際分散投資だって同じです。世界全体が経済発展してこそ報われるものであって欲しいのです。だから、どこかの国と国民が他国の企業に搾取されることを前提とした投資判断などは、あってはならないことだという思いが心のどこかにあります。それが私が"新興国投資大好き人間"になった理由かもしれません。年に何度か新興国に直接足を運んで現地の人間と交わると、そういう気持ちを再確認させてくれるのです。
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