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2016年12月29日

先進国企業だって新興国に搾取されます



ブルームバーグを読んでいたら、なかなか面白い記事がありました。米国のクアルコムが韓国の公正取引委員会から独占禁止法違反で約1000億円の制裁金支払いを命じられたそうです。

韓国の公正取引委:米クアルコムに制裁金、過去最大の約1000億円(ブルームバーグ)

クアルコムは処分を不服として異議申し立てするそうですが、まず勝てないと思います。実際にクアルコムが法律に違反したかどうかが問題ではなく、新興国で裁判などをしても海外企業が勝訴することはまれですから。韓国に限らず、こういう事例は新興国では日常茶飯事で、中国や東南アジア諸国ではよくあること。やはり先進国企業が新興国でビジネスを展開する場合に、避けることのできない"カントリー・リスク"と言えるでしょう。そしてこうした事例が教えてくれるのは、先進国企業が新興国で一方的に利潤を搾取することなど、現実問題としてできないということです。上手くやったと思っていたら、突然に国家権力が登場して今度は先進国企業が搾取される。こうした現実を国際分散投資を実践する投資家目線で考えるとどうなるか。国際分散投資をしている人の中にも「新興国が成長することによる果実はグローバル展開している先進国企業が搾取するので、先進国企業にだけ投資しておけばよい」という"新興国投資不要論"が一部にあるわけですが、現実のグローバルビジネスは、それほど単純ではないと感じるのです。

今回のクアルコムの件のような行政処分だけでなく、新興国では先進国企業と現地企業などとの民事訴訟もよく起こるのですが、ほとんどの場合は先進国企業が和解金を支払って和解しています。なぜそうなるのかというと、本当の裁判に持ち込まれると十中八九、外国企業が勝てないからです。裁判で勝とうとすると、ひどい場合は関係各所に賄賂を渡す必要があるのですが、先進国企業はコンプライアンスが厳しいので、そんな資金は公式に計上できない。だから泣く泣く和解金を支払って問題を終わらせる場合が多い。

こうした状況を見て"新興国は腐ってる!"と批判するのは簡単なのですが、ある意味でそれはあまりにナイーブな見方ともいえます。なぜなら、新興国の多くは欧米や日本といった先進国の植民地支配を受けた過去があるのだから。そういった国で外国企業がビジネスをするということの重大さ理解しないといけない。やはり利益をきちんと現地に還元するという真摯な気持ちが必要であって、利益を一方的に搾取するような植民地主義的発想では最後には国家権力が登場して暴力的に利潤を奪還してしまう。

こういった"カントリー・リスク"を回避するために先進国企業がどういった方法を執っているのか。それは現地企業と合弁などで連携してビジネスを展開することです。そうすれば、問題が起こったときに現地パートナー企業が頑張って対処してくれる。極端な場合、パートナー企業のエライ人が、当局の"お友達"に相談して事を穏便に処理してくれるのです。そのかわり先進国企業は利益もきちんと現地企業と分け合います。こういった真摯な態度がないと新興国でのビジネスというのは非常に難しい。

例えば先進国の自動車メーカーは中国でものすごい販売競争をしていますが、トヨタだろうがVWだろうが中国での製造・販売は現地企業との合弁です。中国は輸入車に高い関税が課せられているので先進国の自動車メーカーは現地生産する必要があるのですが、現地の規制で海外メーカーが現地生産するためには現地企業と出資比率50:50の合弁企業を設立することが義務付けられるのです。だから、トヨタもVWもホンダも中国で上げた利益の半分は現地企業のものとなります。

冒頭の写真は私がインドネシアのジャカルタでよく行くスターバックスです。隣にはバーガーキングもあります。実は両方とも同じ現地企業が経営しています。ようするに米国のスターバックスやバーガーキングとライセンス契約を結んで店舗を運営している。この場合、ライセンス料さえ支払えば残りの利益は現地企業がまる取りです。聞くところによると、相当儲かっているらしい。

こうした現実を見ると、やはり「新興国の成長の果実は先進国企業が搾取する」とは単純に言いきれない。やはりそれなりの利益を現地に残さないとやっていけないのです。そして、本当に利益を搾取するような先進国企業があれば、間違いなく最後に国家権力が登場して"合法的"に叩き潰されます。これが、私が単純に"新興国投資不要論"に賛同できない大きな理由なのです。

そもそも国際分散投資というのは"世界のどの地域の企業が成長するか予想できない"のだから、全ての地域に分散投資してしまおうというのが基本コンセプトです。だから、安易に"●●不要論"といった極論に走るのは、よほどしっかりとした投資理論に基づかない限り整合性が確保できません。

そんなわけで、私は今後も自分のポートフォリオは新興国にオーバーウエイトです。ちなみに2016年は新興国株式のリターンが素晴らしく、先進国株式のリターンを上回っています。やっぱり世界経済は複雑であって、先進国企業が新興国から一方的に搾取するような単純な構図はありえないのでしょう。

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