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2016年11月24日

公的年金について“損得勘定”で論じることから卒業したい



公的年金制度について議論すると、すぐに「現役世代は損をしている」といった発言が飛び出し、なかには「自分で運用して老後に備えるから、これまで徴収した保険料を返して公的年金制度を廃止しろ」といった頭の悪い暴論まで口にする人がいます。こういった議論は、ほとんどが年金制度を“損得勘定”で考えているからのですが、これが大きな勘違いなのです。そういう誤解を解きほぐす意味で、山崎俊輔さんが素晴らしい論考を書いていました。

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まったくこの通りで、いろいろと問題はあるにしろ、やはり公的年金制度には偉大な意義があるのです。それは“相互扶助”という保険の大切な機能にほかなりません。公的年金に対して不満があって、いろいろと議論することは素晴らしいことですが、その前提として、そろそろ“損得勘定”で論じることからは卒業しなければならないのです。

そもそも公的年金は、健康保険や介護保険と同じく社会保険の一種ですから、あくまで「保険」です。保険である以上、最初から損得勘定で論じてはいけないのです。極論すれば、保険は損に決まっているからです。みんなが少しずつ損することで、自分を含めた誰かが遭遇するかもしれない大きなリスクに備えるのが保険の仕組みであり、それが相互扶助ということです。
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そういう大原則が分かれば、損得勘定で公的年金について論じることがどれだけ不毛なことかが分かります。山崎さんが指摘しているように、もし公的年金制度が無ければ、現役世代は保険料支払いから解放される代わりに、リタイアした親の生活を丸抱えしなければなりません。実際に日本でも公的年金制度が普及するまでは、現役世代は親に仕送りすることが当たり前でした。現在でも年金制度が未整備な国では、やはり親への仕送りが普通に行われています。

だから、「自分で運用して老後に備えるから、公的年金なんか廃止しろ」という暴論が、どれだけ頭の悪い発言かわかる。そういうことを言う人は、自分の親を姥捨て山にでも捨てにいくつもりなのでしょうか。そうでもしないと、自分の老後資金の原資など貯まるはずもないのですから。

現在、年金受給者となった団塊世代が恵まれているというのも一面的な見方だと山崎さんは指摘しています。なぜなら、現在の公的年金には150兆円近い積立金があるからです。これだけの積立金が形成できたのは、なによりも団塊世代が必要以上の保険料を払ってきたからにほかなりません。
実はこのお金、団塊世代が現役時代のうちに保険料をある意味多めに支払ってもらい、着々と積み上げてきた資産です。団塊世代が世代間の支え合いだけをしていたら、もっと保険料は少なくてよかったところ、彼らが将来年金世代になって給付が増大するときを見越していたのです。
つまり団塊世代は「年金世代を家庭内扶養で支えつつ、自分の老後のための保険料負担も参加してきた」ともいえるわけです。
こういう視点を持つと、現在の現役世代が何をしなければならないかが分かってきます。日本は少子高齢化ですから、公的年金制度にかかる負荷はますます重くなっていく。しかし幸いなことに現在の現役世代は自分の親世代の生活を丸抱えすることからは解放されています。ならばそのかわりに、次世代にできる限り迷惑をかけないように、多少は年金給付額が減少してもビクともしないように老後に向けた自助努力を行うべきなのです。そうでないと、現在の現役世代が年金受給者になったとき、今の子供たちの保険料負担があまりに過大になり、彼ら・彼女らの生活が成り立たなくなるのです。

国もそういった方向へと隠れたメッセージを発しています。それがNISAのような制度を創設し、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入資格者を大幅に拡大した意味でしょう。それは、凡庸な損得勘定とは次元を超えた意味を持ちます。だから、損得勘定から卒業してこそ、本当の意味であるべき年金制度など社会保障について議論することができるのです。

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