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2015年12月22日

個人の投資には“気休め”が必要だ-山崎元氏の「ドルコスト平均法」論へのエクスキューズ



先日、山崎元氏の信じていいのか銀行員 マネー運用本当の常識 (講談社現代新書)を紹介しましたが、今回はその補遺です。本書の中で山崎氏は「ドルコスト平均法はなんら「有利」ではない」と指摘しています。これは理論的には全く正しいのですが、少しばかりエクスキューズしたい気持ちが強いのです。あえて誤解を恐れずにいうと、ドルコスト平均法は「有利」な方法ではないけれども、個人投資家にとっては、やっぱり「有効」な投資方法ではないでしょうか。なぜなら、心理的に安心して投資を継続できる効果があるからです。それはしょせん、“気休め”にすぎません。でも、個人の投資には“気休め”が必要なのです。

山崎氏のドルコスト平均法に関する説明は本書を読んでもらいたいのですが、元になった文章がネットで発表されています。(この文章の存在はNightWalker's Investment Blogで教えてもらいました。)

ドルコスト平均法について整理する(山崎元「ホンネの投資教室」)

山崎氏の説明は、投資理論的には全く正しい。だから「ドルコスト平均法は「平均買いコスト」に投資家の視点を集中させることで、投資対象が値下がりした時の「気休め」をあらかじめ提供している投資方法なのだ」という指摘も正しいのです。でも、あえて言いたいのは、「気休め」を提供していくれるからこそ、ドルコスト平均法は個人投資家にとって有効な投資方法だということです。

個人にとって投資のリスクと向き合うことは、実際問題として大変な負担です。とくに長期投資は、ある意味で一回の人生の中で一回しか挑戦できないものです。結局、個人が投資を継続できるかどうかは、リスクに対する不安に耐えることができるかがすべてだったりします。そのためには、ドルコスト平均法が提供してくれる「気休め」は大切なのです。たしかに、それは行動経済学でいうところの「後悔回避」の表れでしょう。でも、現実の生活の中で人間は合理性だけで生きていくことはできません。「後悔回避」もまた精神の均衡を維持するための防御機能ともいえる。フロイト流に言うなら、それは「治す必要のない精神病」です。

こうした個人投資家の感覚は、おそらく山崎氏のように運用会社などでプロ投資家として経験を積んできた人にはピンと来ないのかもしれません。なぜなら、プロ投資家はしょせん、他人の資金を運用しているのに対し、個人投資家は自分のお金を運用しているので、失敗したときの精神的打撃の度合いは個人投資家の方が大きい。だからこそ投資を継続するために気休めが必要。そのためには投資効率の低下や機会損失などは、大した問題ではないとさえいえます。それよりも、安心して、納得も得心もして、投資を継続できることの方が大切ではないでしょうか(逆にプロ投資家は手数料を取って他人の資金を運用しているのですから、投資効率や機会損失には徹底的にこだわらなければなりません)。

ただし、それでも山崎氏が指摘しているような理論的理解をしっかりと持っておくことは個人投資家にとって大切なことです。理論的な理解があって初めて「有利」と「有効」の峻別もできるのですから。その意味で山崎氏の「マネー運用の解説書を書く方には気をつけて欲しい。深く考えることなく、判で押したように、「ドルコスト平均法は有利だ」、「ドルコスト平均法でリスクが下がる」などと書くと、この本の著者は頭が悪いか、金融機関の回し者ではないか、と思われてしまうリスクがあると申し上げておこう」という指摘は重要なのです。

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