2015年12月21日

『信じていいのか銀行員 マネー運用本当の常識』-ここまで理解できれば庶民のマネーリテラシーとしては中級・上級者の仲間入り



山崎元さんの新著、信じていいのか銀行員 マネー運用本当の常識 (講談社現代新書)が出ていたので、さっそく読んでみました。想像通り、いつもの“山崎節”全開です。一般的にお金に関する相談は銀行でするものだと信じている人が多いのですが、本書に書かれている内容は銀行員にとって“不都合な、あまりに不都合な真実”でしょう。そうした真実を知ることは、資産運用を行う庶民にとって大切なことです。また、新書ながら、かなり本格的な内容になっており、歯ごたえのある入門書でした。ここに書かれていることを理解できれば、一般庶民のマネーリテラシーとしては中級者から上級者の仲間入りでしょう。

本書の目次を挙げた上で印象に残った点をメモしておきます。

第一章 銀行との正しい付き合い方
第二章 銀行員には不都合なお金の真実
第三章 銀行員が教えてくれないお金の「正しい」知識
第四章 個人はお金をどう運用したらいいのか

第一章で印象的だったのは、現在の銀行は証券会社となんら変わらない「肉食系」の営業が一般的になっているということです。これはすでに投資ブログなどを書いたり読んだりしている人の間では常識なのですが、投資信託の商品ラインアップなどは証券会社よりも劣悪。そんな銀行で預金以外の金融商品を買ってはいけないというアドバイスは、とくに投資初心者はよく理解しなければなりません。そこそも、なぜ預金以外の銀行サービスが高コストになるのかというと、山崎氏はズバリ「銀行員が高給取りであることを忘れるな」と看破しています。これは身も蓋もない話ですが、銀行員の高給を支えるために個人投資家が高い手数料を取られるというのは、それこそ“不都合な真実”です。

そんな銀行にとって“不都合な真実”を徹底的に暴いているのが第二章。お馴染みの毎月分配型投信批判も集大成といった感じで、これでもかといった勢いで批判の矢を繰り出します。ただ、いくら毎月分配型投信の非合理性を説明しても、あいかわらず売れ続ける現状に対してさすがの山崎氏もお手上げの様子で、「営業力」というもののすごさに半ば感動しているところがおかしい。そうなんですよ、山崎さん! 人間は合理性だけで物事を判断していません。関西の貸金業者の用語に「納得も得心もさせて」という言葉がありますが、とくに日本人は物理的解決よりも心理的解決を重視する傾向があるのです。お客に「納得も得心もさせて(=心理的解決)」しまえば、どんな無法も通用してしまう。こうした問題を解決するには法規制しかありません。本書で山崎氏は分配回数を規制するべきと提唱していますが、基本的に賛成です。最低でもETFのように配当・金利収入しか分配金原資に使えないようにするべきでしょう。そのほか「ラップは、クソだ!」といった山崎節でラップ口座も徹底批判しています。ラップ口座という制度の是非について山崎氏の主張に全面的には賛同しませんが、日本のラップ口座の現状を見るとと、やっぱり「クソだ!」と言いたくなります。

ある程度、お金について勉強している人は第三章が面白いでしょう。個人的にもこの章がもっとも読み応えがありました。株価形成の仕組みや長期投資でリスクは減らないこと、あるいは外貨取引はつねに為替変動と金利がセットになって取引されていること、損切り・利食いが不要であること、成功報酬制がじつは投資家にとって損であることなどが、かなり本格的に理論説明されています。これだけの内容を完全に理解できれば、個人投資家の知識としては、上級者レベルの仲間入りです。おそらく銀行や証券会社の営業マン・営業ウーマンより上になれるでしょう。本書では銀行員を個人投資家にとって「手ごわすぎるセールスマン」だと指摘してますが、この章で書かれている内容を理解している個人投資家は、銀行にとって「手ごわすぎる顧客」です。

第四章は、やや付録的な実践編ですが、最後に詳説されている「賢くお金を増やす10のポイント」は非常に重要なことです。なかでも最後のポイント「他人を信じないことの重要性」というのは印象的。投資とは徹頭徹尾、自己責任の原理が貫徹される世界ですから、自分以外の他人を信じてはいけない。「信じるものは愚かなり!」。結局、これが本書の最大の眼目です。投資や運用の世界では、自分で考える以外に、自分のお金を守る方法はないのです。

新書ながら、非常に読み応えのある入門書でした。ただ、最後に少しだけエクスキューズしておきます。山崎氏の主張は非常に合理的です。でも、合理的過ぎるがゆえに、どこか寂しい。例えば他人を一切信じないというのは、寂しい世界です。あるいは本来的にお金を増やすというのは、そういった寂しいものなのでしょう。だから投資や資産運用に夢や生きがいを見出してはいけないのかもしれません。ただ、あくまで個人的な感想ですが、“儲けたい・損したくない”という合理的な判断基準を突き抜けたところに、なにか別の境地があるような気がします。私自身、最近は投資のリターンやリスクよりも、それを突き抜けた「投資とは何か」という問いへの関心が高まってきました。でも、それはすでに投資ではないのかもしれません。そういったことを改めて感じさせてくれた点でも、本書は有益な本でした。

ちなみに本書は銀行関係者にこそ読んでもらいたいと「あとがき」に書いてあります。この「あとがき」こそ、山崎氏の金融業界に対する愛情があふれた“あたたかい”文章でした。
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