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2025年11月4日

パーカー「ソネット」―じゃじゃ馬だけど癖になる

 

パーカーの「ソネット」と言えば定番中の定番ともいえる万年筆です。価格も手ごろなことから、いわば海外メーカーの金ペン入門機といった位置づけをよくされます。かく言う私も、初めて購入した万年筆は、このパーカー「ソネット」でした。しかし、この万年筆は、まったく入門機ではありません。それどころか、非常に癖のある書き味の“じゃじゃ馬”なのです。そしてまた、癖になる書き味でもあります。そこにパーカーの魅力があります。

パーカーのソネットの特長はいろいろあるのですが、一般的には18金ニブによる滑らかなタッチとスムーズなインクフローなどが挙げられます。たしかに純正インクと組み合わせると非常に滑らかな書き味になります(パーカーの純正インクは非常に出来が良いのです)。

ところが実際に使うと、いろいろと戸惑いも生じます。まず、重量バランスがおかしい。金属軸なのでそれなりに重量があるのですが、どうも重心が後方に寄り過ぎている。キャップポストすると明らかにトップヘビーとなり、ペン先のコントロールに苦労します。

また、誤飲事故防止という謎の理由で、キャップに空気孔が付いており、密閉性がありません。なのでキャップをしていてもペン先がドライアップしやすい。完全にドライアップしていなくても、やはり書き出しはインクフローが悪くなっていることが多く、インクスキップも起こりやすいのです。

このため万年筆を使い慣れていない人がソネットを使うと、それこそ万年筆は使いにくいという印象を持ってしまうわけで、まったく入門機としてはふさわしくな1本なのです。

と、ここまで読むとあまり良いところのないソネットですが、それでも根強い人気があり、現在でもパーカーの万年筆の中では売れ筋の1本というのが面白いところ。というのも、たしかに扱いにくい“じゃじゃ馬”なのですが、慣れるとなんとも言えない操作感が“癖になる”のでした。

たしかにトップヘビーな重量バランスは扱いにくいのですが、だんだんとコツをつかんでくると、驚くほど楽しくペン先をコントロールできるようになります。書き出しのインクフローの悪さを乗り越えると、本来の潤沢なインクフローと純正インク「QINK」の滑らかさと速乾性が組み合わさって、なんともいえない軽快さで文字を書くことができる。

ようするにソネットというのは、自動車で例えると普通の乗用車ではなく、それこそ大排気量のスポーツカーやアメ車のようなものなのでしょう。なので、ベンツのようなペリカンの書き味や、トヨタのようなパイロットの扱い易さに慣れた人が初めてソネットを使うと面食らう。でも、やはりそこに独特の楽しさがあるわけで、それこそがソネットが長年にわたって愛され続けた理由かもしれません。

ちなみに、初めての万年筆がソネットだったことで、私の万年筆感はかなり特殊なものになったのかもしれません。実際にその後、ペリカンやパイロットの万年筆を初めて使った際には逆に面食らいました。万年筆というのは、こんなにニュートラルな感覚で使えるものなのかと驚いたのです。それでも、やっぱりたまにソネットのあの操作感を味わいたくなる。なので、いつも持ち歩いているペンケースには、いまでも必ずソネットが入っているのでした。

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