2021年12月12日

『[改訂新版]一番やさしい! 一番くわしい! 個人型確定拠出年金iDeCo活用入門』―最新の制度改正にも対応


竹川美奈子さんの新著『[改訂新版]一番やさしい! 一番くわしい! 個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)活用入門』がこのほど刊行されました。2016年に刊行したものの改訂新版です。確定年金制度は2022年の大きな制度改正が施行されますが、それに対応して内容も増補されました。これは旧版の紹介の際にも書いたのですが、本書は「制度の根本理念を踏まえた上で、本当にiDeCoが必要な人に向けて書かれているという意味で、極めて誠実な入門書」です。

今回の改訂新版では、旧版の内容に2022年5月1日から施行されるiDeCo加入年齢可能年齢の拡大、24年12月施行の企業年金がある人と公務員の掛金上限額の統一などについて詳細に解説されています。現在、定年退職が65歳になっている企業で働く人も多い。また、企業年金のある企業で働く加入者も拡大傾向ですから、今回の制度改正は大きな影響があります。それだけに非常にありがたい解説です。とくに給付時にも大きな影響が及ぶため、加入者も考え方をアップデートする必要があります。

その意味でも本書の特色の一つが、類書ではあまり詳しく書かれていない「給付」の問題にしっかりと紙面を割いていることは重要です。一般的にiDeCoは掛金全額が所得控除されるので節税効果が大きいとされるのですが、それだけを指摘するのは不誠実です。なぜならiDeCoの節税効果というのは、給付時に退職所得控除や公的年金等控除が適用されて初めて具現化するものだから。それどころか、給付時の控除枠を超えた分に対しては、利益ではなく給付額そのものに累進課税される点を本書はきちんと指摘しています。だから、iDeCoの節税効果とは、正確には「課税繰り延べ」効果にすぎないのです(もっとも税務戦略において課税繰り延べというのは極めて重要な戦略です)。本書でもその点が詳説されていることが素晴らしい。

ですから本書の「第5章 運用してきたお金をどう受け取るか」は必読。ここでは、一時金で受け取って退職所得控除を使う場合や、年金で受け取って公的年金等控除を使う場合それぞれでかなり詳細なシミュレーションを行っており、非常に参考になる。また、複数の退職所得の受け取り時期をずらすことで控除枠の最大化を図る方法にまで言及されおり、これも非常に勉強になりました。この点は加入者の属性によって極めて個別的な問題となりますので最適解はありません。

しかも、控除など税制は将来も改正される可能性もあります。また、加入者自身のライフプランも大きく変わることだって大いにあり得る。このため本書でも受給時のシミュレーションは、あくまで参考にしかならないという姿勢が明確です。竹川さんは「ここでは最低限のルールを押さえておき、受け取る時期が近づいてきたら最適な方法を改めて検討しましょう」と結論づけていて、場合によってはプロに相談してもいいという極めて穏当な意見です。こういう穏当な見解こそが普通の市民には有用なのです。

そして竹川さんは、iDeCo制度の根本理念を明確に意識しています。すなわち、iDeCoとは、あくまで小規模自営業者や中小零細企業のサラリーマンといった老後の社会保障が貧困な国民に対して用意されている制度だということ。日本の社会保障制度の問題の一つに、現役時代の所得格差が老後に拡大再生産されるという点があります。現役時代に高収入を得ていた大企業のサラリーマンは、老後も高額の退職金をもらい、高額の企業年金をもらうケースが多い。これに対して中小零細企業のサラリーマンは退職金が少なく、年金も現役時代の報酬比例ですから少なくなりがち。小規模自営業者にいたっては退職金もなく、年金も国民年金だけということになる。こういう老後格差を自助努力で克服するために用意されているのがiDeCoなのです。

このようにiDeCoを活用すべきはどん人なのかまで明確にした上で、制度の詳細を解説しているのが本書の最大の優れた点です。そして、制度改正に応じて内容もアップデートされているわけで、やはり著者の誠実な姿勢に好感を持ちます。今後も定期的に制度改正が続くと思いますし、ぜひその度に増補改訂を続けて欲しいと思う。そうなれば、本書はますますiDeCo活用入門書のスタンダードとして決定版となると思います。

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