2021年9月26日

『新型コロナワクチン 本当の「真実」』―科学者としての誠実さについて



先日、妻が新型コロナワクチン接種の2回目を完了しました。これで夫婦ともどもワクチン接種が完了したことになり、ひと安心です。周りを見渡しても接種を終えた人がかなり増えていて、日本も接種の普及がかなり進んでいることを実感します。一方、やっぱりまだ新型コロナワクチンに対して不安があり、接種するかどうか迷っている人もいます。かくいう私も最初は迷いました。それでも自分なりにいろいろと情報を集めて、接種することを決めたわけです。そういう経験も踏まえて、非常に納得できる内容の“新型コロナワクチン本”がありました。宮坂昌之『新型コロナワクチン 本当の「真実」』です。

著者の宮坂昌之氏は大阪大学免疫学フロンティア研究センター招聘教授で、免疫学の第一人者とされています。その宮坂先生が最新の医学的エビデンスを基に新型コロナワクチンについて解説してくれるが本書。そもそも新型コロナが通常の風邪とどう違うのかから始まり、ワクチンの安全性、効果の機序、副反応などについて丁寧に説明しています。

さらに本書の後半部分も実に興味深いです。「新型コロナウイルスの情報リテラシー」を問題として、世間に流布するトンデモな新型コロナ論・ワクチン論を厳しく批判しています。代表的な“嫌ワクチン本”の書名、著者名を具体的に挙げた上で批判していくスタイルにも驚きました。

なにより本書を読んでいちばん感心したのは、著者の科学者としての誠実さです。じつは宮坂先生も当初はワクチンに対して懐疑派でした。mRNAワクチンが、まったく新しいタイプのワクチンだったからです。ところがその後、次々と蓄積されるデータを見て、ワクチン接種の推奨に意見を変えます。これこそ科学者が採るべき態度だと感心したわけです。

科学者は自然から教えられるデータを基に理論を構築します。もし、自分の理論と整合しないデータが出てきたらどうするか。自分の解釈が誤っていたと考えて、理論の方を修正するものです。もしそこでデータを無視し、自分の理論に固執するならば、もはやそれは科学者の態度ではなく、思想家や宗教家の態度です。

もし科学者が、データではなく既存の理論に固執していたなら、私たちは今も天動説を信じていたでしょう。だから、意見が変わるというのは科学者にとっての誠実さです。そういう誠実な態度で本書は書かれていると感じたからこそ、信用できると感じたのでした。だからこそ、ワクチンについて不安に思っている人や、接種を迷っている人には、ぜひ参考にして欲しい1冊だと思います。

もちろん、ワクチン接種はあくまで個人の判断であり、決して強要されるものではありません。しかし、その判断を下すためには正確な情報を理解する必要があります。その際には、私たちの側も虚心坦懐に現実を直視する「誠実さ」を持たなくてはなりません。奇妙な「逆張り志向」は既に心が囚われている。それは「誠実」な態度ではありません。

そして、ワクチン接種について考える際に、まず直視しなければならない現実は、既に世界で約500万人が新型コロナウイルス感染によって死亡しているということです(2021年9月26日現在)。この現実を軽視して、ワクチンの是非を議論することは、やはり「誠実」ではないと思うのです。

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