2021年1月17日

危機の中でこそ見える“信頼”の意味―「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2020」雑感

 

「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2020」の表彰式が1月16日に開催されました。今回は新型コロナウイルス禍のため初のオンライン開催でしたが、私のような地方在住者にはかえって参加しやすくなったというメリットもあります。そして、結果もまた非常に印象に残るものとなりました。2020年は多くの個人投資家が新型コロナウイルス禍による大暴落という大きな“危機”に見舞われたわけですが、その中でこそ見えるものがあったからです。

今回の「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2020」の結果は以下のようになりました。

1位 eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)
2位 <購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド
3位 バンガード・トータル・ワールド・ストックETF(VT)
4位 セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド
5位 ひふみ投信
6位 eMAXIS Slim バランス8資産均等
7位 eMAXIS Slim先進国株式インデックス
8位 eMAXIS Slim 全世界株式(除く日本)
9位 eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
10位 農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね

やはり最初に目を引くのは上位5ファンドの顔ぶれでしょう。「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」が2年連続の1位となり、コストの安さへの評価と全世界型株式インデックスファンドの人気の高さを見せつけた点は予想通り。ただ、それ以上に印象的だったのが、前回は4位だった「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」が2位にランクアップし、さらに3位から5位にいずれもかつてFOY上位の常連だったファンドが返り咲いたことです。これは非常に象徴的な結果のように感じられました。

インデックスファンドにとって最大の付加価値はコストの安さです。そして、国際分散投資のひとつの解としてあるのが全世界型株式ですから、1位に「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」が選ばれるのはある意味で当然です。では、2位以下の4ファンドは何が躍進の原動力だったのでしょうか。それはファンドに対する受益者の“信頼”だと言っていいと思います。

思い返すと、2020年はコロナ・ショックによって株式市場は一時、大暴落に見舞われました。そうした中で市場から撤退してしまった個人投資家も少なくありません。実際に多くの投資信託で大規模な資金流出が起こっています。ところが、そういった“危機”の中でも、動じることなくファンドに資金を投じ続けた個人投資家と、その資金を集め続けたファンドがあります。両者を結び付けていたものは何か。それこそ“信頼”にほかなりません。危機の中でこそ“信頼”の意味が見えてくるのです。

なにごとも外部環境に恵まれて物事が好転しているときには、表面的な事象で評価されがちです。しかし、表面的な評価はいったん外部環境が悪化して事が思い通りに進まなくなった途端、剥落してしまう。逆に危機の中で評価されるものこそが本質です。皮肉なことですが、本当の実力は危機の中でこそ可視化されるのです。FOY2020は、ある意味でファンドに対する本当の評価を顕在化させたと言えるのでは。危機の中で、本当に信頼されているファンドはどれなのかが見えたということです。

そして、そうした“信頼”の源泉は、ファンドのこれまでの行動にあります。「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」は既存受益者を置き去りにすることなく自律的に信託報酬を引き下げ、インデックスファンドの低コスト化を主導してきました。「バンガード・トータル・ワールド・ストックETF(VT)」は全世界型株式インデックスファンドという方法論自体のパイオニアであり、頂点です。そして「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド」と「ひふみ投信」は受益者との濃密なコミュニケーションによって独自の投資哲学を受益者に深く共感・理解させることに成功しています。

投資信託、とくにインデックスファンドにとってコストの安さは最大の付加価値です。しかし、それが強みのすべてではないでしょう(もし単純に低コストだけが評価されるなら、信託報酬ゼロのファンドの人気がもっと高まるはずです)。ファンドの強みとしてもうひとつ重要なのは“受益者の質”です。それは、ファンドと受益者がどれだけ強い信頼関係で結ばれているのかということです。

“コロナ・ショック”という危機の中において、本当の意味で受益者からの信頼を獲得し、質の高い受益者によって支持されているファンドはどれなのかが明らかになったのではないでしょうか。FOY2020が、それを浮き彫りにしました。そう考えるとFOY2020は近年のFOYの中でも特筆される結果かもしれません。そうしたことが鮮明になるという点でも、やはりFOYという試みには大きな意味があるのです。

最後に、初めてのオンライン開催ということで苦労も多かったであろう運営委員会の皆さんには、心の底から「ご苦労様」、そして「ありがとうございました」と言いたいと思います。

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